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□あっちとこっち
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わかるかな
きみといるととても気分がいい
「名無しさん、そこにいるのか?」
「隠れても無駄だよ。僕には分かるからね。ほら、きみにも話した、超直感ってやつさ」
「やっぱりね。こら、待って。どこに行くんだいまったく。きみの気分を害したなら謝るよ。ごめんね。…さ、ここに掛けて」
起きぬけの冷たい風を感じ
やわらかな陽射しに目を細め、
小さく呼吸するときみたいに。
「聞いて。ちょうどね、僕もきみのことを考えてた。ほら、こんなに天気が良いと書斎に篭りっきりなんて窮屈だし。ちょっとくらい逃避したっていいだろ?」
きみといると昨日あんなに見つめていた
夜空にある満天の星たちを綺麗さっぱり忘れ
心はきみでいっぱいになる。
わかるかな
きみでいっぱいいなるんだ。
心安らかなんだ。
だけど足を止めて全身で今あるものを感じると
急に解き放たれた鳥のように
どこかに行ってしまいそうになる。
切り離される。
こちらと、あちら
感じる、目の前にある景色
葉と葉がこすれあう音色
どこからともなく聞こえる
ピアノの調べ
子供たちの声
海
漣の音
水と水がぶつかり合う場所
全身が感じるんだ。
戻ってこいよって
「なんだかおかしいよな、俺。ねぇ名無しさん、」
まるで湯船に
ぼんやり何もすることなく
あっちを見たり
こっちを見たり
目を閉じて
耳を澄まして
湯舟に半分浸かってるみたい、まるで
半分をどこかに置き忘れてきたような
この場所ではない、どこかに。
「…名無しさん?」
あっちとこっち
20100610