鮫連載2
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贄…ニエ…
まるで夢から覚めたように頭の中がぽっかりとしていた
目の前にはさきほどとは違った雰囲気だった
「思い出したようだね」
まるで小さい子に話しかけるように
「名無しさんはよくやったよ、全て必要な情報を引き出してくれたんだからね」
小さい子をあやすように頭をなでる
そうよ私ってばただボンゴレファミリーの囮だったのよ、昔から上辺だけの盟約に嫌気がさしてドンは独立暗殺部隊を潰そうとずっと……
「やはり君を選んだ俺は間違っていなかった」
今すぐスクアーロ隊長のもと帰りたくなった私はソファーから立ち上がると反射的に足が窓辺へ向かった
「名無しさん?」
「わ、私の任務は…」
ドンはやれやれという風に首を振ると私の腰を抱き寄せ耳元できつく言った
「忘れるな、いつだって君は汚れのない可哀相な愛らしい子羊も同然なんだ、誰も傷つけれやしないんだから」
「痛っ、」
「いっておいで」
さらに笑みを深めるドンに恐怖を覚え、逃げるように屋敷を後にした
まるで吸血鬼のように噛み付いた彼は狂気じみていてまだ私は夢うつつなのかと戸惑ったがまだ首に感じる痛みに現実だと知る
そして自分がスパイの身であることも
幻術と意識の長い葛藤の中で私は自身を取り戻すことができた
きっとドンは気づいている
幻術のとけた今、再び私にかけて私を暗殺者とするだろう
そうなる前に、
「隊長、隊長、たいちょ…」
「名無しさん?」
幹部の屋敷へと侵入した私はすぐさまスクアーロ隊長のもとへと急ぐ
自室にまっしぐらに向かう途中に歯痒くも中断の声がかかり、足をとめざるをえなくなった
「お願い、ベルフェゴール行かせて」
「ベルだって言ったじゃん」
「すごい急いでるの」
「あいつのとこに夜這い?」
ボスにばらすよ、と背後からかけられる声がだんだん遠のきに聞こえてくる
ああ時間がない、なりふりかまわず返事しないまま突っ切った
するとナイフがこちらに飛んできたものだから私は壁に刺さった一本を抜き、隠し持っていた液を垂らして投げ返した
不運にも鈍く刺さる音がした
残りの液を剣に垂らすと勢いよくドアを蹴破った
ガタン、
「なっ名無しさん?どういう…」
キンッと刃と刃がぶつかり合い離れる
これだけでよろけてしまった私は隙だらけで再び襲ってきた攻撃に防ぐことができなかった
「ぐっ、」
「なぜ襲った?」
まともにくらった攻撃に床にはいつくばる私からは隊長の黒いブーツしか見えない
冷たい声色
「隊長…」
息も絶え絶え、仰向けに転がるように隊長も見上げると今まで見たことのないくらい顔を歪めていた
身体がうずきだし意思とは逆に右手に握る剣を左手で抑えた
「奇襲だと、隊長なんでも、斬るでしょ?」
「…お前」
またも歪める表情に私は覚悟を決めた
「殺して、隊長」
「なっ」
「お願い…じゃなきゃ皆が…」
右手がいうことをきかずに隊長を襲う
ふっ、と隊長が笑うと殺気が一気に放たれ私は吹き飛ばされれ壁に打ち付けられた
「間者ってわけかぁ、憎きボンゴレ野郎のな!」
事情を把握したスクアーロ隊長は迷うことなく攻撃を降らせるこれでいいの、時期に私は操られ身体が灰になるまで兵器と化して屋敷を掻き乱すだけなのだから
「おら、これで最期だ」
「……っ」
首にもう少しで触れられそうなほど迫る剣を防げるのもあと数秒
と、一瞬力がゆるんだ
隊長を見るとある一点を見ていた、首だ
私が暴走する前に、
「殺して… 」
ゆっくりと刃が降りる
「で、できない…」
後ずさる彼の顔には悲しみと恐怖と驚きと、
涙が見えた
20090621