あの子の魔法使い
□第4話
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「まったくノア様は何をお考えなんだか!あんな人間を屋敷に住まわせるなんて!!」
現在早朝、ヴァチスタ家本館のソテロの自室。
年長のメイドがソテロの着替えを手伝いながら心底嫌そうに言う。
あのヒナとかいう人間が住むと決まった時点で、こういう状況になるだろうなとソテロは思っていた。
人型魔族ばかりで構成されたヴァチスタ家の使用人達に、人間が歓迎されるわけがない。
しかし、ソテロが予期していなかった反応もちらほら。
「あら、気さくでいい方じゃないですか。私はああいうお方なら大歓迎ですけど」
同じくソテロの着付けを手伝っていた年若いメイドが言う。
あの人間は意外にも、若い使用人を中心になかなかの人気者だった。
きっと年が近いという事もあるだろうし、何より彼らは赤ん坊の頃からこの『ノエル=コクロワ』で人間と共に暮らしているのだ。
もはや人間がいるのは当たり前で、種族の区別意識が低かった。
逆に元々魔族しか住んでいなかったこの国が、人間と共に暮らす様になった時からいる年配の人型魔族にとって、人間は突然自分達の領域にやって来た魔法も使えない下等な種族だった。
そんな年配の人型魔族のメイドが若いメイドの言葉に眉を吊り上げる。
「いい人なもんですか!ヴァチスタ家に転がり込んで、一体何を企んでいるのやら」
「あーヤダヤダ。頭カチカチですのね。これだから長く生きてる人は……」
「なんですって!?」
「もうちょっとカルシウムをお摂りになるべきですわ。ねーソテロ様」
朝のこの時間は大抵いつもこんな感じでソテロの着付けをしながらメイド達がわいわいと喋っている。
同意を求める様に自分を見てきたメイドにソテロは不機嫌に顔をしかめてぼそっと呟いた。
「……私はあの人間が大っ嫌いだわ」
途端に二人のメイドが再び騒がしく言い合う。
「そらみなさい!あんな人間がこの屋敷に住むなんて冗談じゃありわせんわよねー、ソテロ様」
「うそー!ソテロ様お年も近いんだしもっと話してみては?きっと楽しいですって!!」
「何言ってるの!!ソテロ様にはジャン様がいらっしゃるのに、変な虫がついてたまりますか!!」
「そーゆーのが年寄りの考え方なんですよー!男女が喋ってるだけで変な心配ばっかりしてー!今は男友達ってゆーものがあるんです!!」
ソテロはため息をつくと、着替え終わった服で仕事の書類を掴み、未だやいやいと言い合う二人を残して自室を後にした。
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