あの子の魔法使い
□第3話
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ヴァチスタ家の一室。
ここは『ノエル=コクロワ』を治めるための仕事をこなす場所、執務室だ。
「ジョルジュ、それじゃ後の仕事は頼んだわよ」
「はい、ソテロ様」
ソテロは一日の大半をこの部屋で過ごす。
だが最近は少し状況が違っていた。
ソテロは例の謎の少年を調べるために、後の事は優秀な執事、ジョルジュに任せて図書室へ向かおうとしていた。
コン コン
軽いノックの音が執務室に響いた。
「どうぞ」
ソテロが答えると豪華な装飾がついたドアが開き、ノアが現われる。
「ソテロ、そろそろ昼食の時間だけど……」
「もうこの部屋で戴きましたわ、お祖母様」
そう言うソテロにノアがため息をつく。
「本当かい?おまえ昨日の夕食も取ってないじゃないか。……最近益々忙しくなってるみたいだし…」
「あの少年の事を調べなければならないもの。忙しくなるのは仕方ない事ですわ」
するとどこか気まずそうに、ノアがまたいつもの言葉を繰り返す。
「……ねぇ、ソテロ。私が仕事を変わってもいいんだよ。あんたはまだ若いんだし……」
「まさか!そんな事お祖母様にさせられませんわ」
もう何度このやりとりを繰り返しただろう。
ノアはいつも彼女に申し訳ないと思う。
年ごろの女の子だというのに、ソテロは友達を作る暇もない。
自分が仕事の代わりを申し出てもソテロが決して替わろうとはしないのは、いつ死ぬか分からない年老いた自分に替わられても、という思いもあるのだろう。
自分でもソテロ程仕事をこなせるとは思わない。
それでもソテロが忙しくしている姿を見るたび、言わずにはいられなくなる。
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