あの子の魔法使い

□第1話
1ページ/15ページ


ここは人間と魔族が供に暮らす国、『ノエル=コクロワ』。 


この国の奥まった所にある、小さな家で誰かが扉を叩く音が聞こえた。
 



―――ゴンゴン…


家の主は人型魔族の老婆だった。
誰であろうか。
ノックの仕方からして男だろう。
先程行きつけの薬屋に頼んだ薬草が届いたのだろうか。

なんて考えながら、閂を外してドアを開ける。

「はいはい…誰だい?」

「えっと…こんにちは」


ドアの向こうには人間の少年がいた。
年は15、6位だろうか。

短く明るい赤茶のくせっ毛に、ラフな格好をした印象的な金色の瞳の少年だった。 
人間の子供に知り合いなんていない。

誰だコイツ…。

疑わしげな表情をした老婆に少年は少し戸惑った様に言った。

「えーっと、表の貼り紙見て来たんですけど…」

「ああ!アレかい」

昨日貼ったばかりなのにすっかり忘れていた。
一日バイトの募集をしていたのだ。
しかし……

「アンタ魔族の文字読めるのかい?」

「??読めないけど…」

確かバイトは図書室の資料の整理だった。
魔族の文字が読めなければ話にならない。

「アンタそれじゃ仕事にならないよ。バイトってのは魔族の本やらを整理してほしいんだからね」

老婆は不機嫌そうにドアを閉めようとする。

「ちょ…ちょっと待って!!」

少年が慌てて呼び止める。 
「なんだい」

「だってこの貼り紙には、力仕事って書いてあるじゃん!!文字読めなくっても出来る仕事ないの?」

「ないよ」

「ちょっと待って〜!!」 
さっさとドアを閉めようとする老婆に少年が追いすがる。
老婆の額に青筋が浮かぶ。 
「なんだいうっとおしい子だね!」

「俺マジで金がいるんだ!!頼むばぁちゃん!!!!」

――ばぁちゃんだって!? 
これだから人間の小僧はっ…!!

そこまで考えてから少年を見ると、おもしろい位に必死な顔をしていた。

「……アンタなんでそんなに金が必要なんだい」

「ちょっと旅の資金に…」 
「旅?」

「うん。俺今までいろんな街、旅してきたんだけど、そろそろお金調達しないとヤバくなってきててさぁ」 
とちょっと困った様に笑うと、

「だからばぁちゃん頼む〜〜!!どんな仕事でもいいからぁ!!!!」

勢いよく手を顔の前で合わせて頼み込むポーズを取る。

老婆は諦めた様にため息をつくと、少年をもう一度見た。

年のわりにしっかりと筋肉の付いた、なかなか逞しい体つきをしてるし…


「…ったく、仕方ないね。アンタでも出来る様な仕事あげるよ」

「まじで!?」

ありがとーばぁちゃん!!なんて言いながら、手を上げて喜ぶ少年に自然と頬がゆるんだ。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ