あの子の魔法使い
□第1話
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ここは人間と魔族が供に暮らす国、『ノエル=コクロワ』。
この国の奥まった所にある、小さな家で誰かが扉を叩く音が聞こえた。
―――ゴンゴン…
家の主は人型魔族の老婆だった。
誰であろうか。
ノックの仕方からして男だろう。
先程行きつけの薬屋に頼んだ薬草が届いたのだろうか。
なんて考えながら、閂を外してドアを開ける。
「はいはい…誰だい?」
「えっと…こんにちは」
ドアの向こうには人間の少年がいた。
年は15、6位だろうか。
短く明るい赤茶のくせっ毛に、ラフな格好をした印象的な金色の瞳の少年だった。
人間の子供に知り合いなんていない。
誰だコイツ…。
疑わしげな表情をした老婆に少年は少し戸惑った様に言った。
「えーっと、表の貼り紙見て来たんですけど…」
「ああ!アレかい」
昨日貼ったばかりなのにすっかり忘れていた。
一日バイトの募集をしていたのだ。
しかし……
「アンタ魔族の文字読めるのかい?」
「??読めないけど…」
確かバイトは図書室の資料の整理だった。
魔族の文字が読めなければ話にならない。
「アンタそれじゃ仕事にならないよ。バイトってのは魔族の本やらを整理してほしいんだからね」
老婆は不機嫌そうにドアを閉めようとする。
「ちょ…ちょっと待って!!」
少年が慌てて呼び止める。
「なんだい」
「だってこの貼り紙には、力仕事って書いてあるじゃん!!文字読めなくっても出来る仕事ないの?」
「ないよ」
「ちょっと待って〜!!」
さっさとドアを閉めようとする老婆に少年が追いすがる。
老婆の額に青筋が浮かぶ。
「なんだいうっとおしい子だね!」
「俺マジで金がいるんだ!!頼むばぁちゃん!!!!」
――ばぁちゃんだって!?
これだから人間の小僧はっ…!!
そこまで考えてから少年を見ると、おもしろい位に必死な顔をしていた。
「……アンタなんでそんなに金が必要なんだい」
「ちょっと旅の資金に…」
「旅?」
「うん。俺今までいろんな街、旅してきたんだけど、そろそろお金調達しないとヤバくなってきててさぁ」
とちょっと困った様に笑うと、
「だからばぁちゃん頼む〜〜!!どんな仕事でもいいからぁ!!!!」
勢いよく手を顔の前で合わせて頼み込むポーズを取る。
老婆は諦めた様にため息をつくと、少年をもう一度見た。
年のわりにしっかりと筋肉の付いた、なかなか逞しい体つきをしてるし…
「…ったく、仕方ないね。アンタでも出来る様な仕事あげるよ」
「まじで!?」
ありがとーばぁちゃん!!なんて言いながら、手を上げて喜ぶ少年に自然と頬がゆるんだ。
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