―風の想い―

□99%のつれなさと、1%の本音と
1ページ/3ページ

 辛い時くらい…苦しい時くらいは……俺に甘えて欲しい、頼って欲しい。


 そんなことを願うのは…俺の我儘ですか?





99%のつれなさと、1%の本音と





 空は快晴、航海は順調。船首の方から聞こえてくるルフィたちの楽しそうな笑い声を耳にしながら、俺は何時も通りの鍛練に勤しんでいた。

 「二百二十一、にひゃく……!?」

 その時くらり、と急に足元を揺さぶられるような感覚に、俺は堪らず持ち上げていた重りを下に下ろす。額から流れる汗を適当に服で拭い、息も整えないままその場に座り込んだ。

 (…クソッ、身体が重い。それに、頭‥割れそうに痛くなってきやがった……あー…集中出来ねぇ…)

 朝から、多少なり痛いとは思っていたが…どうやら気のせいでは無かったようだ。
 分かっていながらほっていたのが悪かったのか…起きた時は大して気にならなかった身体のだるさや、倦怠感も…今や無視できない程、身体を蝕んでいる。

 「…………とりあえず…水…」

 何か飲んだら少しは軽くなるかもしれない…そんな淡い期待を持ちながら、俺は重い身体を引き摺りキッチンへと向かった。









 キッチンのドアを開けて、辺りを見回し誰もいない事が分かると…俺は無意識にため息を漏らしていた。

 「……居ねぇのかよ」

 何でキッチンの中なのにアイツが居ないんだよ……と、そこまで考えて…俺ははたと動きを止める。

 (な、何考えてんだ…俺は!!これじゃ、俺がアイツに会いにキッチンに来たみたいじゃねぇか!!!!)

 キッチンに入るたび、考えもなしにアイツの姿を探すなんて…!!

 俺は頭を振ってその考えを振り払おうとする。それでも、キッチンの中に僅かに香る煙草の匂いに…アイツの体温や笑顔を嫌でも思い出してしまう。

 「…クソッ!!」

 もともと熱っぽかった身体が、更に火照りだしそうで…俺は勝手にアイツを思い出し始める思考を何とか止めようと、無理矢理視線をテーブルの上に向けた。

 「…………?」

 そこには、何とも普通のビンが一つ。酒ビンによく似ているが…ソレよりも一回りも二回りも小さい。ただ、中に入っているのはどうやら液体のようで、俺が歩いて床を軋ませるたび、ゆらゆらと小さくビンの中で揺れている。

 「この際、酒でも水でもどっちでも構わねぇ」

 それに、例えコレを飲んで怒られても、此処にコックがいないのがワリィ。

 その八つ当りにも似た感情だけで、俺はそのビンの蓋を開け、中の液体を喉の奥に流し込んだ。僅かに甘いソレは、何の抵抗もなく俺の中に消えてく。

 よほど喉が乾いていたのか、二回ほど喉を鳴らせば…俺はその甘い水のような液体を全て飲み干してた。だが、やはり頭の痛みは去ってはくれない…むしろひどくなった気すらする。

 (こりゃ…おとなしく寝てたほうが……よかっ、たな)

 ぐらぐらと、視界が定まらなり、立っているのも困難になってきて…不意に俺の膝から力が抜ける。咄嗟に傍にあったテーブルで自身を支えるが…そんなことをしてもほとんど意味を成さなかった。がくり、と床に膝を付き、テーブルから手が離れた瞬間。ふわり、と何か暖かいモノが自分を包みこんだ。

 「ゾロ!!!どうした、大丈夫か!!?」
 「……………サ、ンジ」

 倒れかけた俺の元に、アイツの低い声が届く。
 荒い息のまま、俺が声がした方へ顔を向ければ…ひどく焦った色をして心配そうに俺を見つめる蒼い瞳と目が合った。

 (……あぁ‥)

 鼻腔を擽る煙草の香りに、自分を抱き締めてくれている腕の暖かさ。俺はそれをもっと感じたくて…そっと目を閉じる。ゆっくりと暗転していく意識の中…チョッパーを呼ぶアイツの声だけが最後に聞こえて……俺の意識は闇へと落ちていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ