―風の想い―

□君の存在、君の笑顔
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 幾多の海賊達が犇めき(ヒシメキ)あっているグランドライン。ここでは…天候も、風向きも、波の動きさえ、何一つ信用できない。この場所ではどんな当たり前な常識も通用しなのだ。

 だから…体がゴムみたいに伸び縮みする人間がいても、人語が話せて治療が出来る医者のトナカイがいても、体の各部分を色々な場所から花の様に咲かせる事が出来る美女がいても……決して驚いてはいけない。

 だから…昨日まで普通だった俺の可愛い恋人が……小さく……と言うか…3.4才くらいの……子供になったとしても……。

  驚いては……。








 「「「「ええっーー!!!!」」」」

 穏やかな春の日差しを浴びながら航海をしていた麦わら海賊団の船の中で、事件は起こった。

 「そ、それ…本当なの!?チョッパー!?」
 「うん。おそらく間違いないよ。だって……」

 チョッパーはちらり、と後ろを見ながら言った。

 「だってゾロが居ないし……なにより、匂いがゾロと同じだし…」

 そのチョッパーの言葉を聞き、ナミは、はぁ…と盛大なため息を零した。








 事の発端はチョッパーがゾロを起こしに行ったことからだった。



 朝……何時と同じように起きてこないゾロにサンジは、チョッパーにゾロを起こしに行ってもらった。

 「アイツ…あんなに寝て大丈夫なのかよ?」

 煙草に火を付けながら呆れた様子で呟く。
 (いや…でもアイツの寝顔可愛いんだよなぁ〜。子供みたいで…。)
などとサンジが関係ない所に意識を飛ばしかけていると、チョッパー悲鳴が聞こえてきた。その悲鳴に驚いて、急いでチョッパーの元に駆け付けたサンジは、目の前に広がった光景に目を疑った。

 「どうした!!チョッ…………えっ?」
 「わぁぁぁ!!!!さ、サ、サンジィ〜!!」

 足に縋りついてくるチョッパーの帽子をよしよし、と撫でつつ、サンジの目は目の前の子供に釘づけになっていた。チョッパーに驚いたのだろうか、小さな体はかたかた、と震え、大きな瞳には涙が滲んでいた。怯えたように自分の腕で自分を抱き締めて床に座っている。

 「…………まさか…」

 見覚えのある緑の髪、翡翠の瞳。そして…床にある白いシャツ、黒いボトムに……腹巻。

 「……ゾロ?」

 ぽろり、と口から出た名前に、目の前の子供がびくり、と体を強ばらせた。恐る恐るサンジを見上げる。

 「…なんで……おにいちゃんゾロの名前…知ってるの?」

 言われた言葉に。サンジはビシッ、と音がするくらい固まってしまったのだった。

    ◆◆◆

 「どうしよう……」

 ナミはそう言いつつ後ろを振り替える。そこには……サンジのズボンをしっかりと掴んでいる小さくなったゾロの姿。人見知りが激しいのだろう、サンジ以外のクルーには全く懐かない。
(本能で…分かっちゃうのかしらね。自分が甘える事が出来る人が…)

 そんな二人を見つつ、ナミはロビンに声をかけた。

 「ロビン、どうしよ…」
 「そうね…この海域にこんなことが起こったと言う前例はないし……原因が分からなければ何とも言えないわね。」

 ロビンもまたナミと同様にため息を零した。ルフィだけは、この事に関して全く心配などしておらず、目を輝かせて今、この状況を楽しんでいる。

 「俺…俺ゾロが小さくなった原因調べてみるよ!!絶対治してみせるから!!」

 そんな二人を見て、チョッパーは元気づける様に言う。必死になって自分達を励まそうとしてくれるチョッパーに、ナミは優しく帽子を撫でた。

 「……そうね。チョッパーが居るんだから何とかなるわよね。」
 「頼りにしてるわ、船医さん。」
 「おぅ!!まかせとけ!!」

 得意げに笑うチョッパーに、ナミは少しだけ心が晴れた気がした。

 「だぁーー!!!!このクソゴム、いい加減にしやがれ!!!!」
 「いいじゃねぇかよ〜〜俺もゾロ抱っこしてぇ〜!!」
 「テメェがそうやって追っ掛けてくるからゾロが恐がるんじゃねぇか!!!!」

 ガツン、と船長の頭を踵落としで甲板に沈めた後、サンジはゾロを抱き抱え、ナミ達の所までやってきた。
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