―風の想い―

□星桜〈後編〉
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 クロコダイルがそう言った瞬間、目の前が真っ暗になるのがわかった。

 サンジが…父を殺した?そんな……う…そだ……。

 俺はその言葉を必死に否定しようとしていた。だが、それはまるで水に濡れた服のようにぴったりと頭から離れず、俺を蝕んでいく。ヤツはそんな俺を見つめ、悪魔の様な声で囁きかけてきた。

 「憎いだろう?自分の父親を殺した……金色夜叉が……ヤツを憎め、そして殺せ。そうすれば…楽になる。」
 「…こ…ろす……?」

 ヤツが言った言葉はいっそ優しさすら感じられる声色で……。放心状態の俺は、ヤツが言った言葉をすんなりと受けとめてしまった。

――憎む…?殺す?サンジを?そうすれば本当に…本当にこの狂ってしまいそうな気持ちが…楽になるというのだろうか…?

 俺は縋るような思いでクロコダイルを見上げた。俺の顔をみたクロコダイルはにやり、といやらしい笑みを浮かべ、屈み込んできて俺の顎を指で掬いあげた。

 「そうだ…。ヤツを殺せ。そして、無残にも殺された父親の仇を、とるんだ。」

 そう言って、ヤツは俺の目の前に何か黒い物を置いた。見覚えのあるソレは、俺が警官をやっていた時に何時も携帯していたモノだった。

 「武器はここに置いといてやる。……健闘を祈っているぞ。」

 ヤツはそう言って部屋から出ていった。その後、ヤツの後を追い、ダズ・ボーネスも部屋から出ていった。

 「…………。」

 窓一つない閉鎖的な空間の中、蛍光灯の光を受け鈍く光っているソレを見ながら、俺はまるで根が生えたようにそこから動くことが出来なかった。












 「クソッ、何処にいるんだ!!」

 俺は街中を走り回ってゾロの行方を探す。しかし、何処を探してもゾロは見つからず、胸の中に不安だけが広がっていく。

(あの時も…一人にしちまったんだ…。)



 『ちょっとあっち行ってくるね〜』
 『大丈夫?俺も行こうか?』
 『ん〜〜。大丈夫よ、直ぐ終わるから。いい子でまっててね。』



 にっこりと。笑った顔が今だに色褪せることなく頭の中に張りついてる。

――また…失うのか…?俺の知らない所でまた…大切な人が…居なくなってしまうのだろうか…。

 サンジはギリッ、と煙草のフィルターを噛み締めた。

 「そんなに急いで……何処へ?」

 ふと自分に掛けられた声に。サンジは足を止める。声がした方に顔を向け、暗やみの中、漸く見つけたその顔にサンジは目を見開いた。

 「…何で…此処に…。」

 暗闇の中、不適な笑みを浮かべている人物。月明かりで垣間見たその顔は、サンジもよく知っている人物だった。











 俺は外を歩いていた。今夜は満月。月明かりが暗い路地を明るく照らしだし、辺りをやわらかく包み込んでいる、そんな夜だった。

 (…探さないと……。)

 歩いている俺にあったのはその事だけ。……決着をつけなければ…と、そればかりだった。



 どのくらい歩いたのだろうか。唐突に、だがとても自然に……探し人は見つかってしまった。心の何処かで見つからなければいい、とそう思っていたのに……。見つけたくないと願えば願うほど、どうしてこんなにも簡単に見つけてしまうのか。

――闇に浮かぶ金色。

 出会った時と一緒だ、と俺は思う。総てを黒く塗り潰してしまう闇の中でも、輝きを放つ、金色の髪。月の光を受け揺らめくその髪は、本当に、太陽の様だった。

 その姿を見て、俺の口からは自然と相手の名前が零れ落ちた。愛しくて、愛しくてたまらない…その恋人の名が……。

 「サンジ…。」
 「……ゾロ。」

 サンジも俺に気付いたらしく、ゆっくりと振り替えって俺を呼んだ。

 俺の視線とサンジの視線が絡まる。

 サンジの顔を、あの氷蒼の眼を見て、自分は明らかに安心している。まだ、一日も離れていないというのに……。
 しかし、それと同時に、俺は恐怖に苛まれていた。

――サンジとの決着を付けなければならない…。

 そのことが俺の胸を締め付け、苦しめる。此処から直ぐにでも逃げたしたいのに…俺自身が、それを許さない。

 サンジは何も言わずに俺を見つめている。ただ沈黙だけが、二人の間に流れていく。
……先に口を開いたのはサンジの方だった。
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