―風の想い―
□Snow for Flower【†】
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空に舞う雪の花。
触れただけで溶け、消えゆくその姿は、まるで幻…。
だからこそ、それは脆く、美しい…。
「…雪……か?」
見張り番の序でに鍛練をしていたゾロはふわりと舞う白い物体に目をやった。だが直ぐに、冬島の近くだから雪が降るだろうと言っていた航海士の言葉を思い出し、白い息を吐いた。空を見上げ、落ちてくる雪を眺める。
黒い雲の隙間を埋めるように舞う白い雪…。
何故だかその雪をもっと見たくて、ゾロは鍛練の道具を邪魔にならない様に置き服を着ると、船尾の床に仰向けで寝転んだ。手に入れたくて手を伸ばしても、それは空を掴むばかり。捕まえてもそれは直ぐに水となって消えてしまう。
(……なんだか…人の命…みてぇだな。こんなにも……簡単に…消えちまう…。ハッ、俺が言える台詞じゃねぇ…か…。)
海賊狩りだと、血に飢えた魔獣だと、ずっとそう呼ばれてきた。生きるため、野望の為とはいえ、多くの人の命を断ってきて…。雪が溶け、水になっていくのがまるで命が消えていく様にみえて…。
この先また…自分の大切な人がこんな風にちょっとしたことでいなくなってしまうのだろうか…。ゾロは両腕で目を覆った。こんなことを考えるなんて、らしくない。しかし、考えざるをえないのはあの金髪のせいだと思った。
「…俺の為に……怪我…してんじゃねぇよ……バカ野郎が…。」
ぽつりと呟かれた言葉は風と一緒に霧散していった。
いつまでそうやっていたのだろう。いつのまにか眠っていたらしく、気付いたらサンジが必死な顔をして俺を揺り起こしていた。
「…サ、ンジ……?」
「…!!ゾロ!!よかった!!何やってんだこんなトコで!!!!いくら頑丈なお前でも、こんなとこに何時間もいたら風邪どころじゃねぇだろうが!!身体もこんなに冷たくなって…。」
サンジは心配そうにゾロを見つめ、決意したように手を取りすたすたと歩き始めた。
「…!!ちょ、サン!!何処へ!?」
「キッチン」
「キッチン!?なんで…」
「今まで俺が使ってたから、ここよりは温いだろ。なんか…暖まるモン作ってやるから…。」
サンジに連れられてキッチンに入ると、確かに外よりは断然暖かかった。その暖かさにほぅ、とため息を漏らしていると、バサッという音がしたと思うと視界が真っ暗になり、タバコの匂いが身体を包んだ。
「………?サンジ、コレは…。」
「着てろよ。まだ、それじゃ寒いかもしんねぇけど…。ないよりはマシだろ?」
視界を遮ったのはサンジの黒いジャケットだった。ゾロは素直にそれを羽織りイスに座った。それを見たサンジは安心したのか、ゾロに背を向け何かを作り始めた。
その時、サンジの青いボーダーの襟の部分からちらりと見えてしまった白い包帯にゾロはずきりと胸の奥が痛くなった。
(俺は…こいつがいなくなったら……。)
ゾロは無意識に自分の手をぐっ、と強く握り締めた。