―風の調べ―〈海上〉
□The forbidden fruit
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認めたのは一人だけ…
欲しいと思ったのも、唯一人…
その身体に触れれば、あなたはどんな声で啼てくれるのでしょうか…?
やっと…あなたに会える
―“我が主人”―
◆ ◆ ◆
「いい天気だよなぁ」
雲一つ無い真っ青な青空を見上げながらサンジはうーんと伸びをする。可愛い羊の頭をした船首をした船は、港より少し外れた位置に停泊して、何処か淋しそうに仲間の帰りを待っていた。
いつも煩過ぎるくらい賑やかなこの船。だからだろうか?たかが数時間の船番でも、淋しいとそう思ってしまう。
「……?」
不意に、気配を感じた。船番の自分以外は皆船を下りたはず…。
誰の物でもない、今まで感じたことのないその気配。
今まで緩んでいた柔らかい空気が、一気に張り詰めたのを、サンジは感じた。知らず下肢に力を込める。だんだんと近づいてくるその気配に、最善の選択が出来るように。
(一発ぶちかましてやろうか…)
殺気…ではないが、海賊船に乗り込むヤツなんぞ目的は一つだろう。
そんなサンジの殺気を感じてか。相手の気配が変わった。ピリピリとした空気。一発触発のようなその空気は帰ってきた仲間達の声によって掻き消された。
「サンジーただいまー」
「メシー!!」
「メシメシうっさい!!サンジ君ただいま。」
ゾロゾロと船に上がってくる仲間達に、サンジは焦る。まだすぐそこに、あの気配は存在しているのに!!
「ナミさ…!!」
「あらゾロ。あんたいつの間に船に乗ったの?」
ナミがさらりと告げた言葉にサンジは驚き、確かめるように先程まで嫌と言うほど睨んでいた気配を見つめた。ナミに声を掛けられたその気配は、先程の刺さるような殺気を解き物陰から姿を現した。
新緑のような髪。
すっきりとした顔立ち。
見慣れた緑色の腹巻き。
その姿は紛れもなく、自分が愛してやまない人の姿。
ただ……ある一点を除いては…。
ナミもそこに気づいたのか、確かめるような視線を向ける。ナミがなにか言おうとした瞬間、聞きなれた声が耳に届いた。
「し、死ぬ…」
「こんぐらいでの量で…情けねぇぞウソップ。」
「情けなくあるかぁ!!てめぇとは体力が違うんだよ!!普通は水樽1つだけでもへばるわ!!お前みたいに両腕に3つづつ抱えられるかぁ!!!!」
「わぁった、わぁった。おいナミ!!買ったもん取り敢えず格納庫に入れと…く……」
話していた言葉が詰まる。樽3つを抱えたゾロが、自分の視線の先にいる人物を見つけ、そして驚いたように目を見開いた。
ゾロの後に船に乗り込んだウソップもあんぐりと口をあけたまま、何度も確認するように視線をあっちに向けたりこっちに向けたりしている。
「すっげぇ〜!!!!影分身か!ゾロ!!」
「「「「「んなわけあるかぁー!!!!!」」」」」
五人分の突っ込みを受けながらも、目をキラキラとさせる船長。その視線の先には、まるで炎のような紅い瞳を持ったゾロの姿があった。