―風の調べ―〈海上〉
□傷跡
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「サンジ、帰る」
「…わかった」
そういうと、俺はすたすたと歩いていく萌黄色をした髪を持つ男の後を付いていく。
「みてみて。サンジさんとゾロさんだわ。」
「噂通りいつもいっしょにいるのね。」
「だってあの二人はね、“主と従者”って呼ばれてるのよ。サンジさん、ゾロさんには決して逆らえないんですって。」
そんなことを話している女子生徒の会話を聞きつつ、俺は前を歩いている男を見た。
(“主と従者”…ねぇ。まぁ、間違ってはないな。俺だってそうなりたくてやってんじゃねぇよ。)
ここは、私立グランドライン高校。ここには多くのお金持ちの子供が通っている。
んでもって、コイツ――ロロノア・ゾロは、この学校のアイドルみたいな存在だ。成績優秀、容姿端麗、そのうえスポーツ万能、さらには生徒会長で家がクソでかいお坊っちゃま。天から二物も三物も与えてもらったような男だ。なんでそんな奴と俺が一緒にいるのかって言うと、話は10年前に遡る。
――10年前――
俺とゾロは仲の良い友達だった。いや、親友だったの方が正しいな。いつも二人でいて、離れてることの方が不自然だったくらいだ。
ある暑い夏の日。俺はゾロに近くの森に遊びに行こうって誘った。その森には当時、噂になっていた、『連続凶悪殺人犯』が隠れた場所だという噂が大人達の間に伝わっていた。しかし、子供の俺たちにそれがどれほど大変なことだなんて分からなかった。
「なーぁ、いこうぜー。ゾーロー」
「だってぇ、パパが行っちゃダメだって言ってた」 「ふーん、ゾロ恐いんだー。ゾロの弱虫ー。」
「よ、弱虫ぢゃないもん!!行こうよ、サンジ!!」
「よっしゃぁ、ぢゃいこ?」
外の熱さに反して、森の中はすごく涼しくて。知らず二人で奥の方まで入っていってしまった。………それがいけなかった……。
「なんだ?何でこんなとこにガキがいるんだ!!…なんにせよ、こんなところで俺の計画を邪魔されるワケにはいかねぇ…」
そいつは夏なのに黒いスーツを来て、両手の爪のところに変な刀みたいなのを付けていた。
「安心しろ、いたぶる趣味はねぇ…。喜べ、おまえら二人一緒に葬ってやる!!!!」
そいつが大人達が言っていた『悪い奴』って言うのは直ぐに分かった。でも、俺は恐くて足が動かなくってそこに立っているだけだった。
「サンジ!!はやく!!なにしてるの!?逃げなきゃ!!!!」
ぎゅっ、とゾロが俺の手を握り走りだした。それにはっ、として俺も走りだす。
「!!!!逃がすか!!」
後ろから悪い奴も走って付いてくる。俺もゾロも必死で逃げた。けど、どんなに頑張っても大人の足から逃げることなんて無理で。
「はっ、も、もぅ…はしれなぃよ。」
「頑張れよ!!ゾロ!!もうちょっとだから…。」
「……イタッ!!!!」
「ゾロ、どうし…!!?」
ゾロが木の根に足を引っ掛けて、転けたのかと思って振り返ったらそこには……。
「チッ、ガキが。手間かけさせてんじゃねぇよ!!」
片方の手首を捕まれて宙吊りにされていたゾロの姿が見えた。
「ゾ、ゾロ…。」
「待ってろ。コイツを殺したらお前もすぐ後追わせてやる。」
「い、イヤ……ヤダ、助け…サンジ…助けて…。」 「安心しろ。すぐ会えるさ、あの世でな!!!!」
黒い服の男は、手に付けていた変な刀を振り上げた。
「ヤダ…ヤッ……うわぁぁぁぁ!!!!!!」
ゾロの叫び声が森の中に響き渡った。
―――ザシュッ!! そして、何かを切り裂く音と一緒に辺りに紅い血が飛び散った……。