―幻惑の風―

□その瞳に映るは…〜若き虎と料理人〜
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 吹っ飛ばされた先に見えたのは、見たこともないような鮮やかな色だった。

    ◆  ◆  ◆

 「どーしてこんなことになっちゃうのかね〜」

 はぁ、とため息を付きながら佐助は眉を寄せる。目の前には、きちんと正座したままオロオロとしている自分の主の姿。まるで親を探す子供のような雰囲気の彼からは『鬼』や『日本一の兵』なんて形容詞当てはまらない。

 「い、如何いたそう、佐助…某、まさかあのような場所に人がおられるなど…」
 「気を失ってるだけだって医者は言ってたけどね。」

 首から六文銭を下げたその主―真田幸村―は申し訳なさそうに目の前の人物を見つめている。
 幸村と佐助の前に横たわっている人物は、規則正しい呼吸をしながら目を閉じている。まだ、目を覚ます様子は見られないその人物に、幸村はただただ申し訳なさそうに傍に座し、佐助は柱を支えに体を支えていた。

 「しかし、何処の御仁であろうか…武田の者ではござらぬ。」
 「つか、どーやって忍び込んだんだか…」

 親方様と幸村の日課。殴り会いと言う名のコミニケーションは何時ものように行われていた。武田軍は皆、其が日課だと知っているし巻き込まれたらひとたまりもないと、幸村と親方様が手を出し始めたら距離を置く。傍にいるのは佐助くらいのものだ。
 だから、親方様が幸村を渾身の力で幸村を吹っ飛ばしたその先に。よもや人が居るなど、信玄も幸村も、そして佐助も…誰も考えていなかったのだ。

 (今気を失ってくれてるだけ、助かるけどね…)

 武田屋敷の警備は佐助、及び武田の忍の管轄である。自分の仕事にプライドがある佐助は警備に対しても不測の事態に備え、最善を尽くしている。
 自分の主に危機が及ぶようでは忍失格…。警備は万全だったのだ。それなのに、配備に付かせている者の誰からも侵入者の目撃していないし情報もない…。
 しかし、目の前の人物はその何十と言う忍の目を掻い潜ってきた。忍頭の自分の目すら欺いて…。

 (……何者だ?)

 正体の分からない奴を屋敷にあげるなんて、とんでもないと佐助は思っていたのだが。幸村がどうしても…と言うので渋々折れたのだ。
 だが、何者か分からないのは事実。佐助は何時でも殺せるように隠し持った小太刀に触れた。

 「…佐助?どうしたのだ?」
 「…何でもないさ、旦那。」
 「そうか?……だが、不思議な御仁でござるな。」
 「……そ?」
 「某はこのような綺麗な黄金の髪を見たことはござらぬ。」

 緩く顔をほこばせ、投げ出された金糸にゆっくりと触れる幸村に…佐助もその人物に視線を落とす。
 たしかに、整った顔をしていると思う。なんか変な眉毛をしているけれど…それでも寄ってくる女子は絶えないだろう。でも、この戦国時代に…こんな目立つ色の髪をした奴、一度見たら絶対に忘れない筈。

 (…ホントに何者なワケ?)

 佐助は探るように目の前の人物を見つめた。

 「…ぅ……」

 幸村が触れたことで意識が浮上したのか、その人物は閉じていた目をゆっくりと開いた。まだ覚醒仕切っていない微睡んだ瞳で幸村を見上げる。

 「おぉ、佐助!!目を覚まされたぞ!!」
 「見りゃわかるよ、旦那」

 嬉しそうに呟く幸村と、興味なさそうな佐助を交互に見やり…横になっていたその人物は目を見開いて起き上がった。


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