―風の想い―
□君の存在、君の笑顔
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「サンジ君、ゾロの世話……任せてもいい?」
ゾロをしっかりと抱き抱えたままのサンジに言えば。サンジは困ったような笑みを浮かべ頷いた。
「構いませんよ、ナミさん。ただそうすると…」
「分かってるわよ、料理とか、色々手伝うから。ゾロ、サンジ君にしか懐いてないからね、コレばっかは、どうしようもないし…。」
ナミはゾロを見て、またため息を零した。すると、そんなナミを見て、ゾロはその大きな瞳に涙を浮かべ始め、ついにはぽろぽろ、と泣き始めてしまった。
「Σうぉ!!どーしたゾロ!!」
「ご……ごめんなしゃい…」
「?何が?」
「だ、だって……ゾロのしぇいでしょ?ゾロがっ…イケナイ…っ…ことしたから…みんな……っゾロみて“はーー”ってして…ひっく…イヤなおかおするんでしょ?」
泣きながらそう言うゾロに。ナミは堪らなく胸が痛くなってしまった。そうだ忘れていた、ゾロは今、小さな子供なのだ。子供は観察力に長けている。よく周りを見ているのだ。それなのに…知らない人が自分を見てため息をついていたから……不安で堪らなくて、挙げ句自分が悪いと思い込んでしまったのか…。
ナミはゾロに近付き、そっ、とそのやわらかな萌黄色の髪を撫でた。
「ゾロは悪くないわ。ごめんね、悲しい思いさせちゃって…。」
「ちが、う?ゾロのしぇいじゃないの?」
「当たり前じゃない。ゾロはいい子だもの。だから……もう泣かなくてもいいのよ」
ナミの言葉を聞いて、ゾロは不安げに、確かめるようにサンジを見つめた。そんなゾロを見て、サンジは優しく微笑んだ。
「ナミさんの言うとおりだぜ?ゾロ、お前は悪くないよ」
「ほん…とう?」
「あぁ。それにな…」
「??」
「ゾロは強いんだろ?強い男はこんくらいで泣かないんだぜ?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべサンジがそう言えば。ゾロは、はっ、としてその小さな手でゴシゴシと流れる涙を拭った。
「ゾロ、もうないてない!!ゾロつよいもん!!!!」
「あっ、ホントだ。強いなぁゾロは。」
サンジが感心したようにそう言うと、ゾロは本当に嬉しそうに、誇らしげに笑った。
(笑顔は……大きくなっても全然変わらないんだな。)
ふと、サンジはそんなことを思った。当たり前と言えば当たり前なのだが、サンジはそれが何故かとても嬉しかった。
“冷酷で残忍な魔獣”
表面上、そんな異名を付けられながらも、本当のゾロはやはりゾロなのだと。目の前で笑っている小さなゾロも、敵陣の中刀を抜き返り血を浴びてしまうゾロも、根元は一緒。……どんなに時が経っても、どんな経験を積んでもゾロはゾロ。そのことが嬉しかった。
「サンジィ?」
「…ゾロ、俺今からおやつを作るんだけど、手伝ってくれねぇ?」
「!!ゾロもおやつ作る!!!!おてつだいする!!!!」
「何が食いたい?」
「んとねぇ……ケーキ!!しろくてふわふわしてて、いちごがのったやつがいい!!」
にこにこと嬉しそうに笑っているゾロとそんなゾロを見ながら微笑むサンジに。ナミとロビンは穏やかな笑みを浮かべた。
「可愛いわね、二人とも…」
「そうね…。まったく、ゾロが小さくなっても何時もと変わらないじゃない。むしろ、何時もよりイチャついてるわよ?」
「ふふっ、いいじゃない。あんな可愛い剣士さん、中々見られないわよ?」
楽しそうにキッチンに向かう二人を、ナミとロビンは子供を見守る母親のような眼差しで見つめた。
「え〜!!ゾロいいなぁ〜。サンジ!!俺もおやつ作るぞ〜!!!!」
「うっせぇクソゴム!!てめぇは唯摘み食いしたいだけだろうが!!!!」
「失敬だな、お前失敬だな。俺はただおやつ食いたいだけだ!!」
「一緒じゃねぇか!!このクソ猿!!!!」
「「おやつよりゾロが小さくなってるって事を不安がれよ!!!!」」
甲板にのびていたルフィにサンジは本日二度目の踵落としを食らわす。そんなルフィを見ながら楽しそうに声を上げるゾロ。ルフィ達のやり取りを見ながら、突っ込みを入れるウソップとチョッパー。
何時もと変わらない船の風景に……ナミはくすっ、と笑い、肩の力を抜いた。此処で立ち止まっていてもどうにもならない。分からない先の事ばかり考えていてもしょうがないのだ。
――きっと…大丈夫!!!!
ナミは漠然とした思いを抱えながらパラソルに戻り、描きかけの海図を仕上げてしまおうとペンをインクに浸した。