BLEACH

□三叉戟現る
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真央霊術院。次代を担う死神、鬼道衆、隠密機動育成の為の教育機関。
流魂街では統学院の呼び名で馴染みある長く歴史ある学院。

今その演習場で、未だ名を持たぬ斬魄刀、俗に云う「浅打」が学生達に配られる。彼等はこれから先、その名を問い、耳を澄ましその物だけの名を見極める事が重要となる。己だけの斬魄刀、その能力解放。その名を呼べば飛躍的に上昇する目に見える力の形。だが、学院を卒業して後死神となり、何年何十年と鍛練を続けてもその名を呼べない者も数多く居る。名を聞ける者と聞けない者、その差は死神業を熟す者にとって、今尚歴然としてそこに在る。

そして、一本の浅打が一人の青年の手に渡る。


「次、志波海燕」
「へいへい」

(刀の名前ねえ…よーするに動物みたいなもんか?でもあいつらは自分の名前なんか教えてくれねえし…どーゆーコトだ?)

説明を聞き流しつつ、いまいち得心のいかぬまま差し出された刀を手に取った。柄に触れた瞬間…―――





教官は怪訝に思った。一人の生徒が刀を受け取った途端ぴたりと静止し、戻るよう声を掛けても俯き黙りこくったままなのだ。立ったまま寝ているかのように反応がまるで無い。

「おい、志波。…志波!」

肩に手を掛けた瞬間びくりと跳ねる身体。そしてゆっくりと口が開かれる。

「…そうか」

静かに落とされる声。刀を持った腕が緩徐と持ち上がり地面と水平に伸ばされる。刀を正面真横に流し空いた片方の手で刀身を覆う鞘を掴み、緩やかに鯉口を切った。露となる刀刃。視線は光を反射する白刃に定められたまま、愉しげに目を細め。

「行こうぜ、…ネジバナ」

「な、に…?」
次の瞬間、教官の目に俄かには信じられぬモノが映った。

「水天逆巻け…『捩花』!!!」










「ッま、待てって…うぁ、……はっ、すっげーなオマエ。なァ、なんで俺オマエの名前知ってんだろうな?ぅおッと危ねえ…、おい、解ったからはしゃぎ過ぎんなって」

演習場の一角。刀とは似ても似つかぬ形状、柄の長い三ツ叉の矛を持った青年がびしょ濡れになりながら笑っていた。後から後から水が溢れ最初こそ戸惑っていた青年も、いつしかソレの好きにさせ仕舞いには親しげに話し掛ける。
周囲から見れば明らかに不審者。だが、取り巻く人々も突然の事に反応できず、湧き出る水に巻き込まれ濡れ鼠になりながら呆然とした様子で呆気に取られていた。


死神にとって、無二の力を手にした瞬間。
ほんの幕開けに過ぎない、けれど大切な一時は、唐突に訪れた。





-幕-

―――――
おまけ

刀の手入れは重要だ。

定期的に手入れをしなければどんな名刀であろうと錆びる。況してや水に濡れたまま放置するなど論外。

刀剣の手入れを要約すると、古い油を拭い取り、新しい油を塗り替え、刀身が錆びないようにすること。
手順を簡潔に示すと、まず柄から刀身を外し拭い紙で汚れた油を綺麗に拭き取り、打粉を掛け再度拭う。続いて油塗紙に丁子油を付け丁寧に薄く塗る。外した手順を遡り鞘へと納め漸く終了。


昼間、あろう事か刀を受け取った直後に解放してしまった青年。
「捩花」の名を持つその刀は流水系。能力を操り切れず演習場の一画を水浸しにし、青年自身はおろか「浅打」全てを水濡れにしてしまった。

統学院の基本方針は、自分の行動の責任は自分で取る。この場合の青年も例外はなく…。



刀に囲まれた一室。ぽんぽんと打粉を掛ける手が止まり、肩をわなわなと震わせる青年が一人。

「だからって…、だからってコレ全部俺一人でやれなんて無茶だろーーー!!!」

悲痛な叫びが響き渡る。



-落-

07.03.15
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