短編
□慣れてしまった屋上の空の下で
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何も起こらない平凡な日常。小説のように何かがきっかけで非日常なことが始まるなんて有り得ないし、期待するだけ無駄なことだ。授業をさぼって屋上で果てしなく続く空を見上げるのも最初は新鮮だったけど、一週間たった今では当たり前のできごとになりさがってしまった。
「ってなわけで土方君、君の吸ってる不良の勲章である煙草を一本恵んで下さいませんか」
「また一週間後には当たり前のできごとになりさがるぞ?」
「一週間後にはまた新しい新鮮さを見つけるからさ、とりあえず今は一週間後までの新鮮さを味わわしてもらいたいわけよ」
今まで真面目に同じような毎日を我慢してきたのだ、高校生活最後くらい今までしてこなかったことをやっておきたい。
だって高校を卒業したら大学か就職をしなきゃならないでしょう?そしたら今以上に同じような退屈な毎日が続きそうじゃないの。大人に近づくにつれて自由もなくなるしね。今の内に自由にやりたいことやって新鮮な気持ちを味わいたいのよ。
あー…でも、そう考えると私ってかなり損してない?
高校生活の二年間までは真面目にやってきたから新鮮な気持ちなんて知らなかったしさ〜。
気がつけば高三。卒業したら大人の一歩手前。
やばい。もっと前から自由にやりたいことやっておけばよかった。
あ〜、損したあの頃に戻りたい。ピーターパン今からでも来てくれないかな。
「ほらよ」
「ん、ありがと」
「なぁ、」
「何」
「一週間後、煙草に飽きたら……」
俺と付き合ってくれませんか
「…マジ?」
「マジ」
「………付き合っても一週間後には飽きちゃうかもよ?」
「飽きさせねェよ、絶対に」
「…最高の口説き文句ですね、土方君」
「だろ?」
こんなに一週間後を楽しみに思うことなんてあったかな。嗚呼、はやく煙草に飽きて新たな新鮮さを永遠に味わわせて貰おうじゃないの。
慣れてしまった屋上の空の下で
私は新たな新鮮さを待っている
(070929)鬼山桜夜