暇つぶし人生

□想い、
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「――…シオン、少しよろしいでしょうか?」




執務室に1人残っていたシオンに、ムウは控えめな声でそう言った。


シオンは手元の書類から視線を外さずに「何だ」とだけ返した。




「…シオン、貴方はいったい何をしたいのですか?」


「……何が言いたいのだ、ムウ」



ムウの言葉にシオンは書類から視線を上げ、悲し気に自分を見下ろすムウを視界に入れた。



「貴方はバカな事を突然言い出したりしますが、これは度が過ぎるのではないですか…?」



“これ”というのは恐らく黄金聖闘士達のゲームの事だろう。



「今までは私達黄金聖闘士や星矢達だけだったのが、今回は無関係な青年を巻き込むなんて…。」




強制参加で嫌々やらされているゲーム。

ルールは簡単に3つ。
1、全員必ず青年と会話を済ませる事。
一人でもしていなかった場合、その者が会話を終えるまで他の者は何もしてはいけない。

2、アプローチの方法は皆自由。
何時、何処で、何をするか。

3、こちらのゲームは気付かれてはいけない。




今の段階で一つ目は皆終わっている。
勿論、あまり乗り気じゃなかったサガやムウ達も会話は済ませた。


だからムウは、シオンに聞いた。
彼の…シオンの真の目的を。

それを見透かしてか、シオンは溜息を零し、小馬鹿にした様な口調で言葉を発した。



「何を言っているムウ。最初に言った筈だぞ?あの青年の正体を知るのが真の目的だと。
このゲームはお前達の緊張を解す為。


気を張り詰めていては相手にバレる可能性があるからな」



シオンにしては珍しく、真面目な返答。
しかし、それが正論かと聞かれれば答えはNOだ。



「…しかし、私はあの青年を巻き込む様な事はしたくない…。
もし、あの子が敵ではなかったらどうするのです?心に一生癒えぬ傷を負わせる気ですか?」




優しく接して、好意を抱かさせて…。それが全部調査の為だと。只の“ゲーム”だと。

彼にそう云ったら何れ程傷付くだろうか……。



数日前の彼の優しい微笑みがムウの脳裏を過る。
偽りのない、綺麗な透き通った瞳…。


それらが涙で歪み自分を見つめる―…。




考えただけで胸が苦しくなるそれらに、ムウは眉間を寄せた。


ムウのその姿に、シオンは一瞬瞳を細めると、何事もなかったかの様に書類に視線を移した。




「…話が終わったのなら、自宮に戻れ。
執務は明日もあるんだ」



シオンの言葉と態度に、ムウは苛立ちながら踵を返し、荒々しく執務室を出て行った。



遠のいて行く小宇宙に、シオンは愛弟子であるムウに心の中で小さく、ポツリと


“すまない”


と呟いた。


シオンのその言葉は勿論、誰の耳にも入らず、暗い闇へと消えていくのだった――…。







嫌、只一人…シオンの心の呟きを聴いた人物がいた。

その人物は心が読めるわけではない。勿論、シオンは口にしてはいない。



何故解ったか。

それはその人物“だから”かもしれない…。
表情や言葉とは逆の、シオンの悲し気な心の呟き…。




「ごめんなさい……シオン…」




風に乗って消えていく言葉は、満天の星空に消えていった―…。








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