暇つぶし人生

□白と銀
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『言われた、って言うか…褒められた?のかな。多分。


俺の手をさ、“綺麗”だって』



傷だらけの手に視線をやり、麗人さんに言われた事を思い出す。




『嬉しいけど、言われ慣れてないからなんか変な感じなんだよね…』



真顔で言われた、俺には勿体無い言葉。


思い出す度に胸が締め付けられる様な痛みがして、


心臓の鼓動が早まる…。





『でも、デスさんが心配する様な事じゃない、よ……』



俺の言葉が最後まで言い終わる前に、俺の頭を誰かが優しく撫でた―。


嫌、相手なんて分かっているけれど…。



視線をゆっくり上げれば、真っ直ぐに俺を見つめるデスさんがいた。


その表情は今までのとは違い、何て言うか…



真剣で、漢らしくて…。


同じ男でも、胸がドキドキと高鳴って言葉が上手く出てこない。



口を噤んで、少し火照った頬を見られない様に俯く。


その間も、俺よりも大きく、ごつごつとしたこれまた漢らしい手が頭を撫でてくれていた。



優しく、まるで壊れ物を扱うかの様なその手付き。



「…お前、髪サラサラだな」


『そう、かな…』



「俺のはあんま手入れしてねぇからなぁ…」そう零しながら、今度は髪を梳く様に触れる。



『…デスさんの髪綺麗だと思うよ?銀髪って格好いいし。


俺も白より銀がよかったな…』



俺の言葉に頭を撫でていた手がピタッ…と止まった。


どうしたのかと視線を上に向けようとした時、デスさんの顔がいきなり眼の前に…。


突然の事に驚いて若干後ずさる俺に、デスさんは気にせず俺を真っ直ぐ見つめるが、気の所為か近い…。



「…俺は好きだぜ」



唐突に言われたその言葉。


泳いでいた視線もその言葉にデスさんへと移動して…頬に熱が集まる様な感覚が俺を襲う。



「お前の…恭の髪の色」


『…っ、…』



髪の事を言われてるだけなのに、胸の中がざわついて照れ臭いって言うか…むず痒いって言うか…。


言葉では言い表せない。そんな感覚。


初めてのその感覚に戸惑いながら、デスさんを見つめる。




「…なぁに、顔赤らめてんだよー」


『あたた!ちょ、力強いって…!!』



未だに頭の上にあったデスさんの手に頭をグリグリされる。


…だから力強いって;;




それから暫く戯れついて遊んで、一通り笑い続けて…。胸の内のものが無くなった頃。

俺の頬を抓っていたデスさんの手に、自分の手を重ねてみる。


やっぱり大きなぁ…同じ男なのに。




「なに、してんだ…?」



俺の行動に、デスさんは驚いた表情で俺を見つめる。



『うーん…デスさんに触ってるとさ、なんか安心するなー…って』




『おかしいよね』って苦笑しながら言うと、デスさんは何も返してくれなかった。


そのかわり、俺の頬を親指で優しく触れて…。それがまた擽ったくって、身をよじる。



「俺もだ、だから……」


『え?ごめん、聞こえなかった』


「なんでもねぇよ…」




デスさんの最後の言葉が聞き取れず聞き返すが、デスさんは曖昧に返すだけ…。




結局最後まで教えてくれず、デスさんは店を後にした。














その言葉が俺にとって大切な言葉になることなんて、この時の俺は知る由もなかった―…。




―白と銀…end。
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