とある本丸の徒然草子

□立春
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立春の日も過ぎたというのにやけに寒い日の朝。

いつものように日課の鍛刀をする。最近は資源に余裕があるので多めにしてみよう。資源の目盛りをALL900にセットする。1:30:00と3:00:00を示したのを確認して、いつも通りだなと白い息を吐いた。今日は珍しく雪が降ると言っていた。雪国出身の私には珍しくも何ともないが、交通機関が止まるのは困る。だがそれも本丸では関係のないことだ。

前回この本丸に新入りが来たのは2週間前。蛍丸だ。新しい刀剣が増えるのは嬉しいが、特にコンプリートを急いでいる訳ではない。うちは2振目以降は顕現しない方針だ。毎日日課分しか鍛刀していないが、それでも錬結や習合に回すことができる。
3:00:00が終わったら纏めて確認しよう。その間に他の日課を済ませてしまうことにして、鍛刀部屋を後にした。






刀装作りに鍛結、出陣、遠征、演練等々ーーー仕事は山程ある。それらをこなしていれば数時間などすぐだ。演練から戻ると既に鍛刀が終わっていた。知らせに来た近侍の蜂須賀と共に確認に向かう。次の鍛刀をしなければならない。
余談だが、最近近侍も内番時の軽装でやるようになった。蜂須賀にその姿でまじまじと見られると何かお小言が飛んできそうで落ち着かない。黙って後ろをついてくる蜂須賀をチラと見やると眉を寄せて見下ろされた。お前は姑か。

「新たな刀が打ち上がったようだ」

ああ義姉も似合うな。シンデレラの姉とかそれっぽい、とか考えていると蜂須賀が口を開く。とりあえず1:30:00の方から確認だ。

「蜂須賀虎徹だ。俺を贋作と一緒にしないでほしいな」
「……なんで君たちは自分連れてくるの?」

昨日の近侍であった大和守安定も、1振り自らを連れてきた。別に文句は無いが、毎回そうだと何か審神者に言いたいことでもあるのかとプレッシャーを感じる。以前やたらと山姥切国広が顕現したときは、出陣の催促かと思った。
さて、次は3:00:00だ。あ、先にさっきのところ資源ぶっ込んで来ればよかったかも。……まあいいや、


「どうも、すいまっせん。明石国行言います。どうぞ、よろしゅう。まっ、お手柔らかにな?」


「………は?」
「?どないしはったんです?」
「蜂須賀、愛染くんと蛍呼んできて」
「分かったよ。君はここで待っているといい」

怪訝そうな顔をする明石に留まるよう言って蜂須賀は出ていった。ああ、怪訝そうな顔じゃなく、この審神者面倒臭そうやなっていう顔かもしれない。

「いやあ、別にいいんだけど、こないだ蛍が来たとこなのよね」
「はあ、」

愛染国俊はこの本丸のかなり初期から居た。他の刀派の兄弟が揃っていく中、ずっと一人だった。寂しそうだとかそんな素振りは見せなかったので、私が勝手に気にしていただけと言えばそうなのだが。それでも、蛍丸が来てとても嬉しそうにしていた。ついこの間の話だ。

「なんか、拍子抜け……」
「さっきから何言うてはるんです?」

蛍丸を追いかけて来たようなタイミングが引っ掛かったが、ただの私の我が儘だ。ようやく愛染くんに家族を会わせてあげられたと喜んでいたところだったから。もっと早くに来てくれていれば、なんて今更どうしようもないし、どうにかしないといけないような事でもない。困ったようにこちらを見る明石を見上げて、笑顔を作った。

「何でもないよ、宜しくね」

結局、ちょっとだけモヤモヤしていた心は愛染と蛍丸の嬉しそうな顔を前に霧散した。タイミングが悪いなんて、馬鹿な話だ。どんな時に来たって2振が喜ぶことは分かっていたはずなのに。国行はやく、と袖を引っ張っていく2振を見て、心からそう思う。その2振に急かされ、えー…と文句を言いながらも口元が緩んでいる明石に、自然と笑みが浮かんだ。ああ、もうすぐ春がやってくる。




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「私の妹が先輩審神者なんだけど、まだ明石いないらしいのよね。早く行ってあげてよ」
「いや、そんなん自分に言われても困りますやん」



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