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□鏡の以心伝心
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「いの字」
大学に行く気にならず、部屋で本を読んでいた。
ドアの開く音がしてそっちを見る。
「みー子さんおはようございます」
「おはよう。ところで、昨日は家にいなかったようだな」
「えっ?あぁ…友達の家に泊まったんで」
友達とは玖渚の家だけど。
そこはわざわざ言わなくてもいいだろう。
その言葉にちょっと彼女は不信そうな顔をする。
「昨日、お前の部屋の前でずっと斑目髪の刺青少年が待ってたんだが」
「零崎が?」
「軽く六時間ぐらいいたな。帰り際にお菓子あげたらスゴい喜んでたぞ」
「……そうですか…」
六時間も待ってる人が来ないなら諦めろよ。
普段なら勝手に部屋に入り込むじゃないか。
そもそも、連絡くらいしたらどうなんだあの気まぐれ。
てか、みー子さんにお菓子もらったんなら六時間くらいチャラ、むしろ待ったかいがあるくらいだろ。
故意ではないにしても、待たせてしまった僕が7:3いや、6:4くらいで悪いのに不満が次々と出てくる。
「どこ行ったとか分かりますか?」
「いーたんの浮気者!もう暫く会ってやんねぇ!!って叫んでたからもう京都にはいないんじゃないか?」
「探しに行ってみます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
骨董アパートを抜け、あの出会った川に走った。
何でかって聞かれたら、何となくいる気がしたからとしか答えれない。
まぁ、鏡なんだ。
僕がそんな気がしたならそうなんだろう。
「はぁ…はぁ…」
あの川のあの場所、僕たちが殺しあったところ。
「いないじゃないか…」
溜め息をついた。
しょせん気のせいだったのか。
どうしようもなく、その場で立ち尽くす。
虚しさだけが残った。
いや、この表現だと会えることを期待してたみたいな言い方だ。
期待なんかしてない。
さっき浮かんだ不満をぶちまけたかっただけだ。
帰ろっかな…。
また気まぐれで奴は来るだろ。
そう思ったら、橋の下にある人影が視界に入った。
白い斑目髪に刺青。
不機嫌な顔をして、元々小さい体を体育座りでさらに小さくしてそこにいる。
一歩一歩零崎に近づく度、心拍数が高まるのが分かり、それが悔しい。
「零崎」
「…よぉ、いーたん…。昨日はお楽しみで?」
「………」
どうとらえても不機嫌だった。
まぁ、六時間も待ちぼうけさせたんだ、無理もないよね。
零崎の…愛しい恋人の顔を見たら、言ってやるもんかと決めていた言葉が溢れそうになってくる。
あぁもぅ、理不尽な不満でも言おうと思ってたのに…。
屈んで、零崎を抱き締める。
零崎の不機嫌なオーラも緩んだ気がした。
鏡なんだそれくらい分かる。
「会いたかったよ」
「会いたかったぜ」
僕と同時に零崎の声も聞こえて。
癪だけどそれが嬉しくて、不満なんてどうでもよくなっていた。
――――――――――
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久々に京都に来た。
まぁ、ここまで来たんだし欠陥の死んだような顔でも見に行ってやろう。
骨董アパートのいーたんの部屋のドアをノックする。
返事がない。
「留守かぁ」
いつも通り鍵を無理に開けて入ろうとドアノブに手を伸ばすが止まる。
「…そいやぁ、次勝手に部屋入ったら訴えるぞって言ってたっけか?」
あの戯言遣いの言うことだ。
別に本気で訴えようとしてるわけじゃないし、言われたからその指示に従う俺でもない。
ただ、一緒に部屋に入るってのもいいな。
なんて下らない気まぐれで待つことにした。
――六時間経過
とっくに日は何処かに消えて、真っ暗な中月が忌々しく輝いている。
「おっっせぇ!!!」
一向に目的の人物がくる気配がない。
大学ならもう終わってる時間だし、どっか行ってるにしてもそろそろ切り上げて帰ってくる時間だろ。
いーたんが誰かん家に泊まるなんて普通の学生みたいなことしないだろうし、そもそもそんな友達いないだろ。
「さっきからずっと待ってるようだけど、まだいの字は来ないのか?」
「あぁ来ねぇ。もう帰ろっかな」
「そうか…。そうだ、お菓子でもあげよう」
「えっ!?マジ!?やったぁあ!俺はこれを待ってたのかもなぁ」
優しい優しいお姉さんは、部屋から八ツ橋を持ってきてくれた。
しかも一箱8コ入りのやつを一箱全部だ。
「何か伝えておくことがあるなら伝えておこうか?」
ちょっと悩んだが、小さく息を吸って思いっきり叫んでやった。
「いーたんの浮気者!もう暫く会ってやんねぇ!!」
「じゃ、その言葉伝えとこう」
「おぅ、よろしく」
優しい優しいお姉さんと別れ、行く宛もなくプラプラしてみる。
八ツ橋は既にお腹の中だ。
「にしてもあのお姉さん親切だなぁ。しかも背高ぇし美人だし。欠陥とは大違いだ」
いーたんなんか水道水しか出さないし。
恋人が遊びに来たのに六時間も留守とかヒデーだろ。
きっと女の子といるんだろうな、あのナチュラル・タラシ。
だいたいよぉ、女の子には優しいくせに恋人には態度悪すぎじゃないか?
突然訪れた俺が7:3いや、6:4くらいで悪いのに怒りが次々と込み上げてくる。
ホントはさっさと京都を出ようとしたけど、無償にあの川のあの場所に行きたくなって、次の日にそこに向かった。
何でかって聞かれたら、何となくとしか答えれない。
そこに行けば、いーたんがいるような気がした。
まぁ、鏡なんだ。
俺がそんな気がしたならそうなんだろう。
あの川のあの場所、俺たちが殺しあったところ。
「いねぇじゃん…」
溜め息をついた。
しょせん気のせいか。
「ばっかみてぇ…」
どうしようもないから、橋の影に腰を下ろした。
虚しさだけが残った。
いや、この表現だと会えるのを期待してたみてぇな言い方だ。
期待なんかしてねぇ。
この前浮かんだ怒りをぶちまけたかっただけなんだからな。
次はどこ行こっかな…。
また別の日に行けば会えるだろ。
そう思ったら、川の前に立っている人影が視界に入って、思わずここにいることがバレないように小さくなってみた。
さらさらした茶色い髪に飴色の瞳。
不機嫌な顔をして、川の前で立っている。
そして俺に気付いてこっちに向かってくる。
一歩一歩いーたんが近づく度、心拍数が高まるのが自分でも分かり、それがムカつく。
「零崎」
「…よぉ、いーたん…。昨日はお楽しみで?」
「………」
どうとらえても不機嫌だった。
突然訪れて、隣人に迷惑かけて、探しに来させたんだしょうがねぇか。
いーたんの…愛しい恋人の顔を見たら、絶対言わねぇと決めていた言葉が溢れそうになってくる。
あぁクソッ、理不尽な怒りでも言おうと思ってたのに…。
いーたんに抱き締められる。
いーたんの不機嫌なオーラも緩んだ気がした。
鏡なんだそれくらい分かる。
「会いたかったぜ」
「会いたかったよ」
俺と同時にいーたんの声も聞こえて。
癪だけどそれが嬉しくて、怒りなんてどうでもよくなっていた。
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あとがき
僕零なのか零僕なのかよくわからない(´・ω・)
二人はスゴい似てるんだけどちょっと違う。
ちょっと違うからこそ、やけに違いが目についてすれ違うみたいな感じ!