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□Missing
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「シャランヘ〜♪」

国際電話を繋げた途端、耳に飛び込んできた第一声がそれで、俺は思わず笑ってしまった。

「サランヘ、ユノ。疲れてるの?」
「う〜ん、今夜はさすがにちょっとだけ〜。癒してよ、ジェジュンア〜」

疲れて甘えたい時に赤ちゃん言葉が出るのは、昔からのユノの癖。

俺なら恥ずかしくて、絶対出来ないんだけど。
ユノがやると、なんか可愛いと思えるから不思議だ。

「タイはどうだった?」
「ライブは楽しかったけど、タイを楽しむ余裕は全然なかったなー。なんか美味しいものでも食べに行きたかった」
「トムヤムクンとか?」
「そうそう、グリーンカレーとか」
「タイスキとか」
「いいねぇ。ガイ・ヤーンとか」
「あー美味そう。メンダーとか」
「む、虫はちょっと…」
「なんで?ポンテギ好きじゃない」
「そうだけどぉー」

他愛もない話をして、笑い合う。

たったそれだけのことを、ユノと出来るってことが、どんなに貴重で幸せなことか。
一度失くしてみるまで、俺は、本当の意味では知らなかったんだ。

お互い忙しいから、会うことはなかなか難しいけど、ユノとは、時々こうして電話で近況を語り合っている。
だけど、そんな時、俺がどうしても気になるのは、今は直接声を聞くことが出来ない、もう一人の……大事な弟のこと。

「チャンミンはどうしてる?」

お決まりのように出てしまう台詞に、ユノが受話器の向こうでふっと笑った。
仕方ないな、とでも言うように。

「ライブは楽しんでたよ。今回はミノも一緒だったし。今日はちょっと疲れてるっぽかったかな?
でも頑張ってるよ。今回のツアーでどんどん自信をつけてきてるし、今はドーム公演に向けて、ホントに頑張ってる」

そう話すユノの口ぶりが、なんだか誇らしげだった。

「そっか…。ホントに頼もしくなったね、あいつは」

日本で活動を始めたばかりの頃は、まだまだ恥ずかしがり屋の子どもって感じで、ホントに可愛らしかった僕らの末っ子。
ホームシックにかかって、泣きながら俺のベッドに潜り込んできて、手を繋いで一緒に寝てやったこともあったのに。

見る間に逞しくなっていって、今じゃユノにさえ頼られるしっかり者に成長してしまった。
メディアを介して見る姿も、どんどん大人びて日増しにかっこよくなっていくのが分かる。

その姿を、傍で見守れないことを、俺はヒョンとしてすごく口惜しく思う。

「話してみる?チャンミンと」
「いや、いい」

からかうようなユノの提案を、俺は即座に断った。

「大事なドーム公演前に、余計なこと考えさせたくないよ」

いかにも聞こえの良さそうな、言い訳も添えてみる。
正直なところ、チャンミンとは、以前のように屈託無く話す自信が、まだ持てずにいた。


ずっと一緒にいるって約束したのに、あんな風にそばを離れて、可愛い弟を、たくさん傷つけてしまった俺。

それでも、自分の決断を後悔はしていないけれど。
今、たった一人でユノを支え、日毎に大人の男へ成長していくチャンミンの姿を見ていると、あいつが今の俺たちをどう受け止めているのか、本心を知るのが怖かった。


『もう、ジェジュンヒョンたちなんて必要ない』


…そんな風に思われてたら、どうしよう…って。

俺の弱さを、ユノは慰めることも、責めることもなく、ただ静かに受け入れてくれている。

「そうだな。今はお互い、迷ってる時じゃないしな」

目の前に、越えなければならない山があるのは、どちらも同じ。
5人でいた頃も今も、俺たちの歩く道が平坦じゃないのは変わらない。
それを常に、全力で乗り越えて行くしか、道を切り拓く術を知らない俺たちであることも。

「チャンミンのこと、頼むね、ユノ」
「もちろん。ユチョンとジュンスのことも、な」
「うん。分かってる」
「それから、お前も。…あんまり、頑張りすぎるなよ」
「ありがとう。ユノもね」

疲れてる、なんて理由にかこつけて、本当は俺を心配して電話をくれてるって、ちゃんと知ってる。

「サランヘ、ジェジュンア」
「サランヘ、ユノヤ」

最後にお決まりの言葉を交わして、俺は静かに通話を切った。
電話の向こうに、日本にいる二人の姿を想像して、本当は付け足したかった言葉を、そっと呟く。

「…サランヘ、チャンミナ」

その言葉を直接伝えられる日が、もう一度来るだろうか。

俺はしばらく考えた後、アドレス帳から、自分からは掛けまいと思っていた、ある番号を呼び出した。
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