★story★
□抱・き・し・め・た・い
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第1話 『Hurricane of Love』 (グァンモ編)
「ねぇ、グァンス」
TVの収録待ちの、控え室。
隣の席でゲームに夢中だと思っていたソンモが、気づいたら俺のことを見ていた。
「なに?」
俺はいつもの癖で、視線を外しながら素っ気なく答える。
「もしかして、寝不足?」
ソンモが俺の顔を覗き込む。
けど、その顔が見られなくて、俺はただ組んだ足の先を眺めるフリをしてた。
「……べつに」
「嘘。昨夜よく眠れなかったんでしょ。目が眠そうだもん」
ふっと笑ったソンモの綺麗な指先が、伸ばしかけの俺の髪をひとすくいさらって、優しく耳に掛けた。
くすぐったい、と思ったけど、振り払えない。
耳じゃなく、胸の奥の方を優しく撫でられたような感じがして、思わずにやりと上がった口角を、片手で覆い隠した。
なんでソンモは、俺のことこんなに分かっちゃうんだろう、って考えながら。
「ちょっと昨夜、変な夢見ただけだよ」
そう言って話を終わらせようとしたのに、ソンモは楽しそうに俺を見つめて、先を続ける。
「どんな夢見たの?」
「……どんなでもいーじゃん」
「僕には言えないような夢?」
「そうだよ」
俺はぶっきらぼうに言って、ふいとそっぽを向いた。
言えるか。
ソンモのこと、滅茶苦茶に激しく抱いた夢だなんて。
そんな夢見るくらい溜まってて、結局自分で抜いたなんて。
なのに欲情は治まるどころか膨らむ一方で、今も身体の中で、ハリケーンみたいにぐるぐる渦巻いてる激流を、必死で抑えてる、なんて。
中学生じゃあるまいし、俺、カッコ悪すぎるだろ。
っていうか、元はと言えば、いつでもどこでもフェロモン垂れ流しまくりのソンモが悪いんだからな。俺は悪くない。
なるべくソンモを視界に入れないようにしてしまうのは、俺の防衛本能の為せる技だ。
それなのに。
「……浮気者」
拗ねた声で耳元に囁かれて、俺は思わずソンモの顔を見た。
「あ?」
「女の子とエッチする夢でも見たんでしょ。最近僕のこと、全然抱いてくれないもん。グァンスの浮気者」
からかってるだけなのか、それとも本気なのか。
少し寂しそうな、吐息交じりの呟きに、一瞬で身体が熱くなった。
ソンモはいつもこうやって、俺を翻弄する。
わかってても止められなくなる。
抱きしめたいって衝動がこみ上げるのを。
「……今夜、部屋行っていい?」
なけなしの理性を総動員して、今すぐ襲いたいのを堪えながら、耳元に低く囁き返すと、ソンモはまだ少し不満そうな目を俺に向けた。
「……なんで?」
「ダメなら、今ここでキスする」
他のメンバーもスタッフもいる控え室で、そんなこと出来ないのは分かってて、脅し文句を口にする。
俺は本気だって、目で訴えながら。
実際、もう我慢は限界だし。
するとソンモは、拗ねた表情のまま、イスから立ち上がった。
逃げるつもりか?と訝しんで見上げた俺の耳に、奴が身を屈めて囁く。
「今ここでもして、夜も来てよ」
にやりと微笑んで見せると、ソンモはそのまま控え室を出て行った。
……たぶん、人目に付かない場所へ行くつもりだ。
「……欲張り」
俺は、緩む頬を手で隠しつつ、ソンモの後を追って席を立った。
頭の中ではもう、今朝の夢の続きが始まっている。
狂おしいくらいのキスをして、強く抱きしめて、それから――
収録が始まるまでにどこまで出来るかな、なんて考えながら、廊下の先を歩くソンモを追いかける。
わかってる。
欲張りなのは、俺の方だ。
【第2話 ジナク編へつづく】