★salty talk box★
□『チーム・スーパーノヴァの栄光』
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【1回裏】プレイボール -Side K-
ユナクから指定されたビルは、かつてのチームの本拠地から近い場所にあった。
先日渡された名刺を取り出し、ポストに書かれた「Office Again」の表示を確かめてから、エレベータで6階へ上がる。
名刺と同じロゴマークの付いた扉をコンコン、とノックしてから、返事を待たずにドアを開けると、すぐに懐かしい声が耳に飛び込んできた。
「グァンス!?」
そう言って駆け寄って来たのは、長身の2人組。
「ゴニル、ジヒョク……」
「久しぶりー!! 元気にしてた!?」
「……お前らこそ」
思いがけない再会に戸惑うグァンスをよそに、人懐こい笑顔で抱きついてきた2人が、矢継ぎ早に捲くし立てる。
「僕らは元気だよー。今ね、一緒にスポーツバーで働いてるんだー」
「ジヒョクは相変わらずドジで食いしん坊だよ」
「うるさいなぁ。ゴニルの喋り過ぎだって、全然直ってないんだから」
「ねぇ、グァンスは?どこで何してたの?」
「俺は……」
3年前の遺恨など少しも残していないように、明るく振舞う2人。
ほっとして答えようとした時、2人の肩越しに立つ、もう一人の男が目に入った。
「ソンジェくん……!」
少し髪の伸びた、でもあの頃と変わらず女性のように綺麗な肌と、円らな瞳を持つその人は、呼びかけるとふっと柔らかく微笑んでくれた。
「元気そうだな」
「……うん」
グァンスの胸に、じんわりと懐かしい痛みが蘇る。
そして、その彼の隣に座って、こちらをじっと見つめていたのは。
「……ソンモ」
「……久しぶり」
ぎこちない笑顔で、無理に感情を抑えたかのようなその声に、グァンスの胸はズキリと鈍く痛んだ。
ユナクが声をかけた他のメンバーというのは、こいつらのことだったのかと、少し複雑な気持ちになる。
彼らは皆、かつて同じ実業団野球リーグ『スーパーノヴァ・リーグ』で活躍した花形選手たちだった。
グァンスが辞めた後、彼らもそれぞれの理由で球界を離れたことは、風の噂で聞いてはいたが、会うのは3年ぶりだった。
ソンモとの、見つめあった視線の中に、グァンスの3年分の想いが去来する。
先にふっと視線を逸らしたのは、ソンモだった。
何か言わなきゃ、とグァンスが焦った、その時。
「おー、皆よく来てくれたねー」
奥のドアが開いて、きっちりとしたスーツに身を包んだユナクが表れた。
「ヒョン、一体何を企んでるの?」
集められた5人の中では一番年上のソンジェが、弟たちを代表して口を開く。
「言ったでしょ。新しいチームを作るんだって」
にやり、と笑って言い放つユナクに、5人は互いに顔を見合わせた。
「ヒョン、声かけたのって僕たちだけ?」
「そうだよ」
「野球には最低でも9人は必要なのに?」
「そうだね」
「第一、僕達はもう野球はできませんよ?」
「知ってる」
「じゃあ……」
どうして、と言い募ろうとした5人を片手で制し、ユナクは言った。
「俺はね、もう野球のスカウトマンじゃないのよ」
想定外の答えに、きょとんとする5人。
「え……じゃあ、何の?」
てっきり、新しい野球チームを作るために呼ばれたとばかり思っていた面々を見回して、ユナクは自信満々に言った。
「アイドルだよ」
「は!?」
「お前らは、アイドルグループとしてデビューするんだよ。俺の事務所からね」
……チーン、と効果音が付きそうな沈黙がその場に落ちる。
「や、待って待って。これ、ギャグじゃないからね。なんか俺、スベったみたいな空気出すのやめて?」
慌てるユナク。
「待って、ヒョン。どういうこと?」
「もう一度、スーパーノヴァを追いかけるって言ってたよね!?」
「ドームを目指すんだって……」
聞いていた話と違い、動揺する面々。
気を取り直したユナクが、意気揚々と説明する。
「いま日本ではねぇ、空前の韓流アイドルブームなのよ。だからお前らは、日本でトップアイドルを目指すの。目標は、東京ドーム単独ライブ!」
呆気に取られ、揃って口をあんぐりと開ける面々。
(注:ソンジェだけはアヒル口)
「おい、ユナク。冗談……」
グァンスのツッコミは、ユナクの勢いに呑まれてかき消された。
「野獣系アイドルならぬ、野球系アイドル! お前らなら絶対イケる! 自信を持て!」
「自信って……」
何の、と冷めた目で呟くソンモ。
呆然とする5人を見回し、ユナクは告げた。
「グループ名は『Team Supernova』。ぴったりだろ? お前らに」
かくして、ここに5人(+1名)の若者たちの栄光への物語が幕を開けた。
【2回へつづく】