暴君アリス
□暴君アリス
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ねぇ、忘れてしまったの?
ボクはこんなに覚えてるのに。
「もう、泣かないよ。」
困った様に笑うあなたに、ボクは確かにそう誓った。
無理に絡めた小指を振って、歌を歌って「約束」をした。
あなたはボクの頭を撫でて、またひとつ、困った様な笑顔をくれて。
「エライね、『 』は」
ホントの笑顔が見たかった。
ねぇ―…それだけだよ。
『アイル。』
エラくなんて ないんだ。
− * * * −
アリス 忘れちゃったの?
愛してくれるって、
―…ヒトじゃなくても。
ソラが、泣き出し怒っても、僕らの傍にいてくれるって。
「―…クライネっ…」
約束したけどアリスじゃないね。
僕のこの手を取ったのは。
「―…離して、アイネ。」
でもありがとう。
「 も う い い よ 。 」
アリスが僕らを突き放すなら、
僕らに意味はないじゃない。
アイネ、キミは純粋で…気づいてないかもしれないけれど。
気づいてた。アリスは、ホントは笑ってない。
「…それはアリスが拙いだけ」
此処は、不思議な不思議の森。
気紛れの雨が降り注ぐ。
振り返る。佇むアイネの向こう側、花に囲まれたアリスの「オウチ」。
小さな声で花が歌う。
打ち付ける雨がリズムを奏でる。
開いた本を逆さに置いた、そんなカタチの緑の屋根。
―…ねぇアイネ、
「アリスの名前を知っている?」
「ー…、」
大切なこと、忘れてた。
思い出すのはいつもそう、僕らに名前がなかった頃で。
アイネが「誰」だかわからない―…僕が誰だかわからない。
名前を呼ばれて、嬉しくて。
アリスの声に存在を、
アイネの笑顔に幸せを。
感じる 自分に酔っていた。
アイネクライネ、アリスの下僕。
ふたつでひとつの森の精。
アリスの名前も 知らないで。
「クライネ、役を外れるの?」
「バカだね、アイネ。僕は死ぬまでアリスの下僕。
空が泣いても怒っても、もう恐くなんかないんだもの」
アリス、嫌われたくないよ。
それから、嫌いたくないよ。
それはあなたが思うほど、僕らは大人じゃないかもだけど。
だけどもう、幼いだけの子供じゃないから。
「アイネ、アリスに伝えてね。
あなたの名前を探しに行くと」
―…名前を、
呼ばれて嬉しくて。
永遠を望む日もあった。
ねぇアリス。あなたのウソを突き崩せたら、仮面の下には何がある?…「笑い方」、ちゃんとあなたは知っていますか?
「伝えるよ、僕の、半分。」
アイネクライネ、アリスの下僕。
此処は、不思議な不思議の森。
―…アリス 笑って。
やっぱりなんだかおかしいよ。
あなたが幸せじゃないなら。
* * *