暴君アリス

□暴君アリス
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むかぁし むかしの、ことでした。



ある日アリスは言いました。
「役を外れたらどうなるの?」


無邪気で残酷な、アリスの疑問に答えたのは、帽子屋でした。
帽子屋は、アリスの願いを叶えるためなら…なんでもしたのです。



気違い狂った帽子屋は、自ら役を外れました。



帽子屋は、足の指のツメの先から、毒に犯され始めました。
それはそれは森の全てに響き渡る声で、苦しみを森の住人たち―…そして、アリスに示しました。


アリスは、帽子屋を消してしまいました。


これ以上、その声を聞いていたくなかったのでしょう。
それから長い間、「帽子屋」の型は開いていました―…。





帽子屋抜きでのお茶会は、それはつまらないものでした。
ふたりだけでのお茶会は、それは寂しいものでした。

帽子屋は帽子屋ですから、森には帽子屋がいなくなりました。
帽子がなければ、首を隠せません。

多くの者が、女王に「クビハネ」を命じられました。





何を思っているのでしょうか。
失われた笑顔について、

アリスも、帽子屋も。



アリス 満足しましたか?
帽子屋 悔いはなかったか?



私にはあったよ。







新しい帽子屋は、お茶会の途中に現れました。
先代と同じように帽子を被った、彼は私たちに言いました。



「遅れた。」



先代よりも綺麗な顔、先代よりも短気な性格。
―…変わらぬアリスへの忠誠。



帽子屋は、帽子屋ですから。



いくら代を重ねようが、帽子屋はやはり、帽子屋ですから。
眠りネズミも起きました。
アリスも茶会へやって来ました。

アリスは帽子屋を見ると、
少し悲しそうに笑いました。



その時のお茶会には、ほとんどの森の住人が参加しました。

満足そうに疲れた三月ウサギが、微笑みながら眠りにつきました。
いつもとは逆でした。
私が彼を運び、寝かせました。

これだから―…ウサギも帽子屋も、失いたくはないのです。

それでも流れるのが時代。
失われるのがこの世の常。



願いはあまりにも、愚か。



 「愚かでない願いなど、」

―…ないのだけれど。 



此処は不思議な不思議の森。
不思議の森の、お茶会場。


眠りネズミは夢を見る。


森の記憶と歴史の夢を。


―…今を失わないために。

* * *

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