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独りで逝くのは
―…イヤなのよ。
「なんて傲慢なのかしら?」
意味を成さないナイフを見つめ、そっと唇を寄せていた。
降り止まぬ雨、つたう紅色―…
絵画の中の貴族の血。
「―…素敵ね。」
銀色ナイフはポケットに。
ウサギの帽子の泥を払って。
頭に被せてみれば、それは私には大きすぎてた。
《オレンジ・マーマレード》
「何よ、見向きもしないじゃない」
拾い上げ、ラベルを撫でると少し剥がれた。
撫で続ける。ツメで擦った。
文字は薄れて読めなくなって、
伸びてしまったのりが汚い。
「醜いわ。」
まるで私ね、哀れだわ。
跡形無くは消えられない。
ラベルで何だか判断されて、
誰にも見向きされなくて、
それでも藻掻いて剥がしたら―…しっかりとアトが残ってる。
「所詮 名前を付けられて」
それから一生抜け出せないのよ。
だから、アリスは嫌いなの。
「だって、
私はリアスだもん。」
澄んだ音。飛び散る橙。
キ エ テ ナ ク ナ レ 。
全部、全部―…。
擦り寄った。
小さなネズミと視線がぶつかる。
マーマレードの割れたビン。
散った橙を掻き集めてた。
ナミダの雨粒。水溜まり。
海を泳いでいるかのように、
マーマレードを追い掛けて。
「―…ダ、イナ…。」
ダメ、私。思い出しては。
また忘れるの、大変でしょう…?
可愛いダイナ!私のダイナ。
ネズミを取るのが上手だったわ。
―…あぁ、
「ウ・エ・マ・シャット…?」
―…私の猫は、何処にいるの。
* * *