暴君アリス
□暴君アリス
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「アリス、やめて」
「………。」
滴り落ちる紅い雨。とても綺麗でイヤになる。
鼓動を打つ度じわりと染みて―…そして痛みが走ってつたう。
忌々しい。
「へいき、クライネ。
―…確認だから」
生きてることを思い知る。
頼んでもないこの感覚。
酷く、酷く煩わしい。
「―…早く、治して僕らのアリス。
あなたの血なんて見てたくない」
「アンアリスたちは喜ぶけどね」
「気違いだとしか思えない」
「やさしいんだねぇクライネは」
違うと照れる下僕の横で、ボクは切り口に「治れ」と呟く。
手首に出来た深紅の線は、端からたちまち消えてゆく。
手を這う紅が綺麗で醜い。
「アリスの―…ままで、
死ななきゃね」
雨が薄めてくボクの紅。
汚いそれでも愛しく思う。
唯一ボクと 彼とをつなぐ。
「だから、雨を好きなんだ」
ボクを溶かした雫を浴びて。
紅を辿って追ってきて。
アリスでいなきゃ なんないの。
「―…だから クライネ、
泣くのはおやめ?」
笑ってクライネ キミらのために。
「…ごめんね、」
ボクは アリスで。
「巻き込んで ごめん。」
此処は不思議な不思議の森。
気紛れの雨は降り続く―…。
ホントはとても よわいから。
――fin.