暴君アリス
□暴君アリス
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「―…アリス、何をしているの?」
アリスの家のバルコニー。
白塗りベンチに腰掛けた、僕らのアリスは空を見ていた。
シーツを1枚抱えただけ。
ほとんどハダカの状態で。
打ちつける雨がシーツを濡らす。
鼻歌混じりに空を見上げた、
アリスはとてもキレイだった。
「…この場所は空が近いから」
「だけど、風邪を引いちゃうよ?」
「へいき。すぐに治るもの」
あめ、あめ、ふれ、ふれ。アリスは歌う。
鈴が鳴るよりキレイな声で。
アリスの歌が大好きで、僕は部屋から外へ出た。
アリスと一緒のバルコニー。
黒い雲から涙の様に。
冷たい雨に、アリスと僕はそっと打たれて。
「アイネ、キミこそ風邪引くよ?」
「いいの。アリスとおそろいだよ」
アリス、だから大好きなんだ。
優しいあなたに張りついた、その銀色の一本さえも。
むかぁし、むかし、世界には、
希望っていう 言葉がなかった。
僕らの世界は塞がれて、
森の喘ぎを聞くしかなくて。
繰り返す。時間を、
絶望にも似た空白に、
―…塗り潰すこと。
きっと、ホントの希望なんてね。
ないんだ、アリスの言う通り。
ただの願いに名前をつけて、ただただ縋って甘えてるだけ。
だからたくさんもがくんだ。
―…ねぇ、
シ ア ワ セ に
な り た い よ 。
「アリス、アリス 大好きだよ」
重たい雨をまとってる。
アリスは笑って歌い始めた。
笑っているのに泣いている。
その歌はとても心地よく、
僕はアリスの隣で眠る。
「アイネ、ごめんね。
―…ありがとう。」
謝らないで、僕らのアリス。
アイネクライネ、アリスの下僕。
僕はあなたの型無しアイネ。
あなたのために生きるから。
「―…ごめんね。」
此処は、不思議な不思議の森。
雨に降られて色を濃くした。
アリス、アリス 聞かせてよ。
アリスにとっての
―…希望の定義を。
――fin.