暴君アリス

□暴君アリス
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アリスなどでは ない。

不思議の森の住人は。


カタチをなくしたタマシイは。






「………いい御身分ですね、猫。」

「おだまりよ、兎のクセに」


ボビーエプロンを巻いた囚人服の猫は、私に向かって毒づいた。
趣味の悪い容姿をしている。
趣味の悪い格好をしている。



金の瞳の、 その猫。



「…とても欝陶しいね、お前」

「私の台詞ですよ…あぁ、アナタの所為だ、遅れてしまう!」

「遅れればいいよ。お前なんか」

「…どこまでも厭味な方だ」

兎と猫とは仲が悪い。
大昔からの決まりごと。


気に入らない。




―…だけど、猫。



「アナタの予言能力だけは、
―…信じてあげますよ。」




―…アリス。


新しいアリスが、再び現れるなら。


「勝手にすればいい。
…早くお逃げよシロウサギ」


「言われずとも。アナタにも早く安息を…チェシャ猫」


我が名はクラウディアス。
  クラウディアス=リグレイド。

不思議の森の元型の、
 "シロウサギ"の役と型を持つ。

ただ 逃げていたかった。
 願ったら、こんな姿になった。


それでいい。


私はもう アリスではない。

アリスではいられない。



 逃げられなかった―…。

アリスの ままでは。



* * *

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