暴君アリス

□暴君アリス
18ページ/54ページ






− * * * −






足 り な い の 。




探してる。ずっと探してるんだ。

 欠けた、何かを。



「月の様だね、我ながら」



欠片を求めた指先は、何も掴めず空を切る。
―…抑えきれない喪失感。



此処は不思議な不思議の森。
アリスにとっては地獄の森。




流れ続ける森の唄、

アリスの、心を侵すから。






駄目だよ ひとつを望んだら、
ボクはアリスじゃいられない。



アリスでいなきゃ、意味は無い。




ボクは、アリス。

ア リ ス で い な き ゃ 。

















「そうしていつも―…心は、壊れていくんだね…?」





悲しげに唄う猫がいた。
記憶の底で悲鳴を上げた。

拡張し、緑を染めていく赤い海に立ちながら―…
天上の神の化身の如き美貌の姫は、静かに静かに顔を上げ。

その引き結ばれた唇は、緩やかに弧を描いてく。



「壊れなきゃ、狂わなきゃ。
ボクはアリスでいられないもの」

「だからあなたはアリスなんだよ」



紫と桃の囚人服。
 同色の髪と長い尻尾。
足には枷を引きずって、金の瞳の猫は笑った。

にんまりと、チェシャ猫の笑みは広がっていく。



「アリスの生き血は、神の蜜。」



舐めとった紅は酷く甘い。
アリスに穿った闇を見据え、猫はにんまり頷いた。
滴り落ちる神の蜜。甘い匂いと、アリスの銀。




「いつまでアリスでいるつもり?」

「不思議の森のお気の済むまで?」




にっこり笑う、アリスは傷に手をかざし、小さく「治れ」と呟いた。


全てはアリスの望みのままに。


杖振り回し呪文を唱え、間抜けに時間を消費はしない。
ただ命令して服従させる。
それだけで、全てはアリスに従うから。



「まるで神だね、我らがアリス」

「"ココロ"―…せめてキミだけは、忘れてないと思っていたのに」



塞がっていくアリスの闇。
また見えなくなる心の闇と。



 アリス、アリス、

―…聞こえるかい? 



綺麗に微笑むアリスが悲しい。
痛いのに笑う猫も悲しい。


違うけど、同じ悲しみを背負っているのに。

どうして、こうも 退け合う?




何処でボタンを掛け違えたの?




「アリス、あなたが嫌いだよ」

「―…知ってる。」

「死ぬまで一生嫌い続ける」

「知ってるよ、ココロ。」



全部黙って受け入れて、
きっと受けとめてあげるから。

「だから、ココロ。」





 「そんな、泣きそうな顔、

―…しないでよ、ねぇ。」 





此処は不思議な不思議の森。
全ての戯曲が始まる場所。


どれだけ綺麗に着飾ろうが、森の前では全て泡。


全ては醜い マリオネット。




グラン ギニョルが、   


  は じまり   ま  す。




――Fin. 

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ