暴君アリス

□暴君アリス
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「Drink Me...なめてるのかしら」

不思議の森のモノなんて―…口にするハズないじゃない。
どうなることやら知れないもの。
…ましてやこんなの、気持ち悪い。

四肢を身体をイバラが覆う。
 トゲが掠めてちくりと痛んだ。

 「Drink Me.」

…だけどそうね、この状況。
ここは妥協をするべきかしら?



「妥協も何も。選択権はあなたにないよ」



にっこり笑った緑がいた。
私の傍。綺麗なローブの男の子。


「…うるさいわね」

「…ねぇあなた、堕ちてもアリスでいられるんだね?」

「………リアスよ私は…。
―…アリスじゃないわ」



それが何だか分からなくて、私はつい彼を睨む。

彼はにっこり微笑んだ。
にっこり笑って"ソレ"を掴む。

ヘドロのような、ドス黒いもの。
「Drink Me.」の札の立つ、おかしな見た目の森のモノ。

「ちょっ…!?」

「ねぇリアス?抜け出したいなら飲まなきゃだめだよ」

にっこり笑った緑色。
彼はその手にヘドロを掬い、一気に喉へと流し込んだ。


「イバラのナミダは通行証―…」


笑った緑は埋まってく。
森のイバラに埋まってく。

イバラは緑に絡み付いて、大きな大きな塊になった。
大きな大きな塊は、そのまま下へ沈んでく。

「イバラの―…ナミダ?」

こんなヘドロがイバラのナミダ?
私は渋い顔をした。

此処は不思議な不思議の森。
不思議の森のイバラの海。



「―…困ったわね。」



この森に入っては、いけないよ。
寂しがり屋の住人は、
"自分と同じ"を欲しがるから。

イバラが"同じ"を欲しがったら?
緑が森の住人だったら?
 100%そうでしょう。
だったら私はどうしたら?



 困ったわ。
教えなさいよシロウサギ。



 貴方が私を導く先が、たとえば澱みだとしても。

 ウサギの帽子は私の切符。

此処で果てるよりいくらかはマシ。

ウサギも此処を抜けたのかしら?
私の時を奪って攫って?

 「Drink Me.」

…仕方無いわね、信じてあげる。
騙したらたぶん許さない。

そしたら…何を憎もうか?
あぁ―…どうしよう、わからない。


「イバラのナミダは、通行証…。」


イバラのナミダのひとすくいに、私は黙って口を寄せた。
触れた途端、甘い香り。

 「―…あら。」

ナミダがあまりに美味しくて、私は掬ったすべてを飲み干していた。
たちまち、イバラが私を襲う。
 私はイバラの腕に抱かれた。
トゲは私に優しくて、痛みもないまま視界が塞がる。

声がした。傍で何かの声がした。




『イバラのナミダは通行証…』

『醜い醜い通行証』

『認めてくれてありがとう』

『イバラのナミダは通行証…』




それがイバラの嘆きだと、
委ねた身体は理解した。




認めて 誰か、誰でもいいわ。

教えてよ、貴方から見た私のこと。



私、ちゃんとリアスよね?



* * *

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