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「アイネ―…?」
アイネクライネ、アリスの下僕。
ふたつでひとつ、ひとつでふたつ。
金色少女が息を飲んでる。
森の入り口のその前で。
…僕らのアリスは違ったよ。
ちゃんとウサギを殺しに行った。
ウサギは死んでないけれど。
「アイネ、アイネ??」
繋がらない。どうしてアイネ?
何処にいるの?
「アイネ…。」
アイネクライネ、ふたつでひとつ。
ひとつでふたつの 森の精。
金色少女が踏み出した。
シルクハットを握り締めてる。
ウサギの時計はアナタの時間。
ウサギの帽子はアナタの切符。
終点駅まで 止まらない。
金色少女は入り口へ。
石が囲んだ深い洞窟。
大きな口に飲まれそう―…だってホントに飲まれるからね。
金色少女は躊躇った。
だから黙ってなかったんだよ。
「――…きゃぁぁっ!!」
悲鳴。悲鳴。戯曲が始まる。
此処は不思議な不思議の森。
不思議の森のその入り口。
穴はアリスを飲み込んだ。
影を絡めて飲み込んだ。
此処は不思議な不思議の森。
不思議の森の入り口は。
生きて いるんだよ、アリス。
アリスの消えた影を見つめて、僕はそっと耳を澄ませた。
やっぱりそれは聞こえなかった。
アイネの声は聞こえなかった。
響くは呪いの双子の祝詞だけ。
ただただ双子の祝詞だけ。
『もっと』『もっと』
『『 ま ざ り あ っ て 』』
『ひとつに』『なろう』
『『離れ離れは悲しいよ』』
うるさいんだよ呪いの双子。
そんなのとっくに分かってる。
アイネクライネ、アリスの下僕。
―…ふたつでひとつの 森の精。
ふたつで一対。ひとつじゃない。
双子のようには なれないから。
アイネクライネ、アリスの下僕。
僕らはいつでも寄り添って。
アイネクライネ、アリスの下僕。
離れる事の無いように―…。
* * *