Wizardry

□*約束の唄*
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 触れる。
めりこむ。
倒れる。 

 動かない。



―…もう動かない。




手に残る体温は残酷で、
着物に染み付く血は冷えていく。


 今日から背負う運命。


俺は忘れずにいられるだろうか?

所属も意志も容姿も種族も宗教も流派も全て全て全て。
何もかもが違っていても―…。



俺が踏み越えていくのは、

命だというコト。








《04:Join us?》







[ワシが式部京聖戦学府校長、
村正御舟(ムラマサ・ミフネ)であるッ!!]

[これまで多くの仲間と共にロードを疾駆し、多くの魔軍をほふってきた!]

[諸君にも戦場での戦い方、生き残り方を一から叩き込む所存である!]

[お主らなら出来る!
出来ぬ訳がない!――否ッ]



[出来るまでやらせる!
―…以上であるッ!!]






− * −




ただ、シンプルだった。



余計な言葉も祝辞もなく、ただ…学徒たちの意欲を煽り、強烈なインパクトを与える。
煮詰まった濃密な時間。
多少の満足・多大な期待。

余計な装飾のない入学式は至極簡単なわりに、強く新入生たちの心に刻み込まれた。



「………最後に。

いかなる時であれ、我が学府の学徒として、ホトの武士[モノノフ]として、誇りある行動を取りなさい。

では以上で、入学式を終了します」


凛とした声で式の終了を告げたのは、ひっつめにした金髪と鋭利なブルーの瞳の女性。
ユリウス・鑑真、式部京聖戦学府の教頭にして総合カリキュラムの教師である。



その横に、一際目立つ巨漢がいた。

根元は黒く、毛先は赤く。
そんな長い髪は額から天頂にかけて毛がなく、変わって眉毛やヒゲは濃い。

崩した着物から覗くのは、引き締まった肉体と胸毛。


校長…村正御舟(ムラマサ・ミフネ)。


男は"フェルパー"という、猫耳と尻尾を生まれながらに持つ半獣人の種族。
豪快な雰囲気とその巨躯。

男は式の会場であった講堂を出る学徒たちを見ながら、その口元を吊り上げた。





見渡す学徒はこれからの期待と、夢の道連れへの誘いを唄いながら―…正式な入学手続きを行うために教務室へと急いでいた。


 希望に溢れる表情と、声音。


それらを見遣りながら、信楽蒼月はこっそり目を閉じ溜息を吐く。



希望が希望のままで、
役目を終えるワケがないから。



「どうせ消えてしまうなら、
最初から無い方がまだマシだ。」



使い古しの台詞を吐き捨て、長い蒼髪を後ろに流して。
青年はただ皮肉げに、歪んだ笑みでそこにいた。



* * *

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