Wizardry

□*約束の唄*
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− * * * −




守りたいものは他にある。

そう告げて、背を向けた。



知っていた。最大の禁忌。
迂闊だったよ、悪魔が。

―…悪魔のクセに。



「アンタを守る。 
―…死ぬまで一生」 



好きだったもの全て投げ出させるほどにそれは俺を惹きつけて。
あぁ、俺が此処にいるのは、間違いなくアンタの所為だ。

だから責任取って、傍にいさせろ。
アンタを、俺の運命にしたい。



覚悟しやがれ クソ野郎。






 「おやおや…」



 「穏やかで、ないですねぇ?」






《03:EveB》






トロア暦608年、冬。
 魔国ディアブロ、国境。



「いいのかよ、王子が国を出ても」

今まさに、天竜召喚札で呼び出した空中都市イカロスの移動用機械竜――ワイロールで飛び立とうとしていたオレに、そいつは馴々しく声を掛けてきた。
吹き荒ぶ風に巻き上げられた砂と同色の髪は、遊ばれていろんな方向に靡いている。

 ―…こいつ、確か兄上の…?


「…いいワケないじゃん。
いくら疎まれていようとオレは…王子だから」


あぁ、感情を出さずに言えた。
こんな女々しい足掻きなんて、誰にも知られたくないから。

だって、王の子供は代々双子。
片割れを殺さなきゃ、王にはなれない―…殺されるのは、イヤだ。
どうせなら足掻きたいんだ、"アイツ"のように。


「でも 行くんだろ?」


 …こいつ の。

この笑みは、苦手だ。
いくらオレが何か言おうと、何もかも…水か柳の様に流してしまう。
苦手で、嫌いで、羨ましくて。
渋面になるのを感じた。オレは、兄上のように器用じゃない。

「父上にチクるならどうぞ。
…どうせなら大々的な討伐隊でも組んで、オレを討てばいい」

「残念。俺はやたらと敵を増やすほど若くも粋狂でもねぇさ」

「…懸命だよ。」


オレは肩を竦めて、ワイロールに乗る。
風が吹き遊ぶ銀色が、視界を少しなでては消えた。


「じゃ、お前の敵にはならないであげる」

「…どーも。」


軽い調子で頷くそいつ。
それ以上何を言っていいのか、わかんなくなる。

風を受けて、ばさばさとマントが揺れた。
機械の部品の間を擦り抜けて、それはワイロールのいななきになる。

あぁ、うるさい。そう感じながらそいつを睨み…オレは何を思ったか、ただ全部、そいつに告げていた。

口火を切るのは簡単で、あとは唇の紡ぐままに。



「父上に伝えて。
"戦王子は国を出た―…だから"、」




「…あぁ。」 


風で、いななきで、聞き取りにくかったハズだけど。
そいつは確かに頷いた。

砂色の髪が、ワイロールの羽撃きで起きた風で大きく乱れる。
そいつの笑顔は崩れない。

 最後まで、微塵も。…そして、







オレは 国を出た。




…どうして教えたんだろう。
言わなければ、あと少しくらいは発覚を遅らせるコトが出来たのに―…。


「…あーあ。」



 「バッカじゃねぇの…オレ。」



故郷の空から異国の空へ。
変わりつつあるその中で、オレはこっそり呟いた。

機体を鳴かせる風の冷たさに、オレは静かに身を震わせる。



 会いに 行くよ。

そして奪ってあげる。



大切なものの、そのスベテ。




「さよならディアブロ。」





戦王子は国を出た。だって足掻いていたいから。



 死を待つだけの、命なら。

少しでも少しでも、長く、永く。


* * *

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