暴君アリス
□ジャックとキミのき。
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私の料理女(メアリ・アン)は、
…しあわせだったのだろうか。
最後に残されたパイの味。
焦げてしまった失敗作。
アリスへとわたるはずだった。
「…それでも、確かに美味しいよ」
屍だって恋をする。
アリスに、恋した彼女のように。
私は妬んでアリスを嫌い、彼女はそれを案じてうつむく。
ループ。変わらぬ。
ついに、伝わることはなかった。
それでもそれは真実だった。
あぁ、誰にも告げずとも、
私がそれを真実とするなら。
想いを、愛と呼べるだろうか。
「…メアリ・アン」
愛していた。伝わることなどもうないけれど。
これだけは永遠に本当だ。
私はとてもしあわせだった。
ありがとう。
せめて、
森の死神に気をおつけ。
アリスのままではないけれど、
不思議の森から逃げられる。
私はそれを祝福しよう。
アリス、
私が招いた新たなアリス。
あなたは殺されたいという。
ならば、ここまでくるがいい。
「私が殺して差し上げましょう。」
少し惨めで大いに悲しい。
身から出た錆の醜さよ。
こんなことなら最初から、なにも望まねばいいのだろうか。
あぁ、それでも私はウサギ。
やっぱりしあわせがほしかった。
「…メアリ・アン」
そのしあわせが『彼女』だったと、どうして分からぬフリをする。
矛先を何故アリスへ向ける。
私はいつからこうなった?
どうして、
誰よりも好きだったのに。
「………アリス、」 破壊の。
お許しください、私のアリス。
かつてはあなたが望んでくれた、強い私はもういません。
それでも願っていいですか?
―…愛する 誰かの冥福を。
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