妖逆門 小説
□炭酸
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真夏の太陽は燦々と、そしてかんかんと地上に照りつける。
――「あ゙〜つい〜…」
人の気のない道路傍。アスファルトが跳ね返す熱と空からの太陽の光に挟まれて、少年・多聞三志郎はついに歩みを止めた。
「こんなに暑くなるなんて反則だぜ…。まだ7月だろ…?」
「今年は例年にない猛暑だそうじゃねえか…。世間が騒いでンだろ…」
音もなく三志郎の後ろに現れた個魔・不壊も、全体的に見て平生よりもさらに怠そうである。
「っあー、そうだったっけなぁ…!…それはそうとフエ…こういう暑い日にはあんまり出てこなくていいからな。その服かなり暑苦しそうで、見てるこっちまで…」
「馬鹿野郎…本人がいちばんつらいんだぞ。こちとら好きでこんな服着てねえよ」
「じゃ、脱いじゃう?」
「…止めておく」
危険を感じた。
しかしそんな閑談を繰り返す元気も、すぐにこの蒸し暑い気候に吸い取られ、辺りにはただセミの鳴き声が虚しく響くのみとなった。
すっかり暑さに叩きのめされてしまった三志郎と不壊。口重にとぼとぼ歩く。
「…!あ」
先刻の様子とは打って変わった三志郎の嬉々とした声に、不壊の意識が再び覚醒する。
「どうした、にぃちゃん…」
「っはー!救いの神だっ!」
「あん?」
何がだ?と三志郎の向く方を見る不壊。 その先には、機械の箱が1つ、建物の壁添いにあって…。
不壊はその箱についての知識を、巡りの鈍った頭の中からやっとこさ引っ張りだした。
「あぁ…あれだな。たしか中に飲みモンが入ってるっていう…」
「そっ!何か冷たいモン買ってくる!フエも飲むだろ?」
確かに、救いの神に違いない。
「悪いな。ゴチになります、と…」
答えを聞くと、三志郎は「待ってろよ〜!」と残して、自販機の元へと駆けていった。その変わり様を目の当たりにして、意外と現金な奴だな、と小さくため息をつく不壊。その次には、彼の意識はもう暑さへの不満でいっぱいになった。
――だからだったんだろうな…。にぃちゃんにコトを頼むと、絶対と言っていいほどの確率で何かしらの問題がついてくる…そんなことも忘れちまっていたなんて…。
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