妖逆門 小説

□洗濯
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からりとした陽射しが、眩しく降り注ぐ。

住宅が所々に建っている閑静な小道を歩く少年・多聞三志郎にも、その陽射しは公平に光と暖かさを与えていた。

「あーっ、すっげえ晴れたなあ!」
あったか〜い、と大きく伸びをする三志郎。

「気持ち良さそうだな、にぃちゃん」

良い天気により、足元にくっきり浮き出た三志郎の影から、すぅっと現れた黒い男が、三志郎の様子を見て声を掛ける。燦々と注ぐ太陽の光に一瞬目を眩ませるも、少し間を置いて三志郎を見上げて笑みを浮かべる。
出現した個魔に気付き、弾んだ声で答えてやる三志郎。

「だって、あんなに続いてた雨がやっと止んだんだぜ!?外に出られてうれしいんだよ!」




――昨日までかなりの悪天候だった。
じめじめした分厚い灰色の雲は太陽の光をほぼ遮断し、横殴りの大雨が大きな音で叩きつけてきていた。現に二人の足元にはとても広い水溜まりが数個見受けられる。
その最悪な天気が3日で去ってくれたことは幸いであったが、純アウトドア派の三志郎にとっては、外に出られない3日が人の何倍の苦痛に感じられたことか…。



「す〜っげえつまんなかったもん。雨なんて大っ嫌いだっ」
「そうだろうねぇ…宿じゃ5分置きに外見てたくらいだもんな?」

くつくつと苦笑を洩らす不壊。笑われて三志郎は口を尖らせ、

「だって、早く次のげえむがしたかっ――」


プアァアァッ!!!!



三志郎の言葉を突如かき消した、後ろからのクラクション。
反射的に振り返れば、一台の派手なスポーツカーが二人の方へ猛スピードで向かってくるのが目に入った。


「うっ、うわあぁっ!!?」


危険を察知した三志郎は、慌てて道の脇に転がるように飛び退き、目をかたく結んだ。
その直後、バシャリと大きな水音を立ててスポーツカーが一瞬で通過していった。

遠ざかるエンジンの音。



「大丈夫かい、にぃちゃん…?」

近くから聞こえた不壊の声にパチッと目をあける三志郎。
すぐ目の前に不壊の顔があり、三志郎は素っ頓狂な声を上げて飛び退いた。

「ふ、フエ…っ!」
「ったく…轢き殺されるかと思ったぜ」

小声で悪態をつきながら三志郎から離れる不壊。
その姿に、三志郎は目を丸くさせた。

「っフエ!?びしょ濡れじゃねえか!?」

不壊の羽織る黒衣、彼の銀髪、そして顎から絶え間なく滴る滴。
先刻の野蛮な車が弾いていった水溜まりの泥水を被ったのだということは一発で分かった。

さっき不壊の顔が間近にあった、ということは――。


「ま…にぃちゃんを守るのが俺の役目だ。気にするな」
腕の泥を拭う不壊。しかし、その手さえも泥水に汚れているため、きれいになるどころか…。
微かな舌打ちをする不壊をじっと見ていた三志郎は眉を歪め、それからまっすぐ不壊を見据えて言った。



「その服、オレが洗濯する!」



「…あん?」
「オレの代わりになってくれたんだ、…せめて何かしなくちゃ」

最後の方は申し訳ない気持ちが声を縮めている。
その健気な言葉に不壊は胸打たれつも、平生を装って「余計な気回すな」と微笑してから、三志郎の影に消えようとする。


しかしそれは三志郎が許さない。
行き掛けた不壊の濡れた腕をガッシとつかむと、

「それにっ、風邪ひいちまうだろ!?」

その言葉に、不壊は一瞬まじまじと三志郎を見つめたが、次にはクッと苦笑を洩らす。
妖が風邪なんかひくかよ、と口の中で呟く個魔を引っ張り、何笑ってんだよ〜っと口をとがらせながら、三志郎はその場を駆け足で離れていった。


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