妖逆門 小説
□PHANTOM
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夏がまた来た。
自分の家の旅館の庭に咲くひまわり。朝日を浴びて光ってる。
制服を着て、かばんを手にする。
「よーし、準備OK!」
「おい、にぃちゃん。髪がハネてんぞ」
部屋を出ようとしたら、ふいに呼び止められた。おっと、うっかりしてた。
手櫛でささっと直してみせ、笑顔で礼を言う。
「サンキュー、フエ!」
オレがそう言うと、目を細めて柔らかく笑ってみせてくれた。
外に出ると、夏の陽射しがとてもまぶしい。ちりちりと肌が焼けるような感覚がする。でも嫌じゃない。
「今日行けば夏休みなんだぜー!うひょー、わくわくするぜ!」
「わくわくするったってな…にぃちゃん今年は“コーコージュケン”なんじゃねえのか?」
「そ、それはそれ、これはこれだよ。それに…」
フエの方を振り返る。
「夏休みは、お前に会えた大切なものなんだ。だから大好きなんだ」
あ、照れてやんの。そっぽ向いちゃった。そんなところがカワイイな、とか考えてにやけていると、風に混ざって遠くから聞こえてきたチャイムの音。
「うわ!やべえ!」
慌てて学校へ走りだした。そのおかげで、どうにか始業には間に合ってくれた。
息を切らすオレを見下ろしてため息をつくフエ。間に合ったからいいじゃんかー!
終業式での校長先生の話。いつの集会よりもさらに長い話。
うつらうつらしてきたオレだけど、「にぃちゃん」の声にハッと目を覚ます。横を見れば、呆れて腕組みをするフエの姿が。
「立ったまま眠るたァ、どんな曲芸だ?」
「ご、ごめん…」
小声で謝りつつ、フエの呼んでくれる「にぃちゃん」を聞きたくて、もう少しうとうとしていれば良かった、と思ってみたりした。
「よっしゃー!夏休みィー!!」
そして今年も夏休みがやってきた。
帰りのHRが終わったと同時に教室を飛び出た。
「そんなに急いでどこ行くんだい、にぃちゃん」
「ん?どこも」
「あん?」
「どこにも行かないぜ?ただ嬉しいから走ってるだけー!」
はあ?と首を傾げるフエ。フエには分かんないもんねーだ。
走ったけれど、行き先は家じゃない。
着いたのは、小さな港。
「お前と出会った場所なんだぜ、フエ…」
フエは何も言わない。
――4年前、オレはこの港を出た船の上でフエに出会った。
そして日本中を巡るすっげえ大冒険をして、
最後の敵を倒したとき、
フエは姿を消した。
静かな波の音が重なる。それを聞きながら、ぽつりと呟いた。
「これからも、ずっと一緒だぜ?」
フエは確かに「ああ」と返した。
フエ。大好きなフエ
ずっとそばにいるよ
いつでも一緒だ
お前を愛してる
たとえ今のお前の存在が
オレのつくった幻だとしても
<おわり>