妖逆門 小説
□波の音-ナミノネ-
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どこまでも広がる青い空。
穏やかに流れる白い雲。
微かに聞こえる潮騒。
そう、ここは…。
「海…」
――潮風を受け、陽射しを浴びて輝く真っ青な海。白い砂がさらわれていく波打ち際に、亜紀はぽつんと立っていた。この爽やかな景色に似合わず、盛大なため息をついた。
「げぇむに勝って次はどこに飛ばされるかと思えば、海…。もう…あたしはどこかお買い物出来る大きな街に行きたかったのに…ガッカリよ」
「でも海だってきれいで素敵だと思わない?」
影からスゥ、と出てきたハルを見上げ、「まったく、呑気なんだから…」と呟く亜紀。
「ね、亜紀ちゃん。まだ日が暮れるまで時間もあることだし、ちょっと遊んでいきましょうよ」
「はあ!?なんでそうなるのよ!?」
「だって〜、海なんて滅多に来られないじゃない?せっかくなんだから…ね?」
ニコリと微笑まれると、『駄目』の一言が何故か消えていって…。眉をハの字にしつつも微笑み返した亜紀。
「分かったわよ」
ハルの表情はその言葉を聞いてさらに輝き、やった!と両手を合わせて喜んだ。
「じゃあ行きましょ、亜紀ちゃん♪」
「ちょっと待って。あたしはまずここがどこなのか調べてくるから、ハルは先に…そうね、浅瀬ででも遊んでて」
「へぇ、亜紀ちゃんてば偉い。うん、分かったわ」
早くね〜、と手を振りながら海へと向かうハル。亜紀は控えめに手を振り返しながらフゥ、と小さなため息をついた。遊びましょう、ですって…まるで子供ね。クスッと笑いがこぼれた。
「さて…」
ハルの後ろ姿を見送ったてころで亜紀はキョロキョロと辺りを見渡し、近くに堤防を見つけるとそっちに小走りで近づいていく。近くまで来ると、上に向かって器用に堤防を登り始めた。
頂では、この海の周辺を眺めることが出来た。辺りには寂れた道が遠くへ続くのみで、民家らしいものは見当たらない。しかし現在の位置から離れたところに船が幾隻か泊まっているのが微かに見えた。そこに人がいることは確かであるが…。
「うわぁ…あそこまでうんと歩きそ〜…」
これからの苦労を考えると、肩を落とさずにはいられない亜紀だった。
するとそのとき――
「亜紀ちゃん!亜紀ちゃん!」
不意に叫び声を聞いた亜紀は、ハッとして顔を上げた。
「ハル…!?」
亜紀は慌てて堤防を後にして入り江の方へ急いだ。のんびり屋なハルのことだ、まさか浅瀬より深いところに行ってしまったのかもしれない!
急いだ甲斐があり、すぐにさっきの場所へ駆けつけることが出来た。すぐにハルの後ろ姿を波打ち際で見つけた。
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