銀魂短編

□穏やかな秋の下で
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「ただいま戻りましたー」

外へ出ていた新八が帰ってきた。
しかし中に居る筈の銀時からの返事が無い。
帰宅の際、おかえりの返事ぐらいはいつも返してくれるのに。

不思議に思いつつ居間へ上がってきたがここに彼の姿は無い。
では、和室の方か。

新八の見当通り探していた人物はそこに居た。
入り口の方へ背を向けて、自身の腕を枕にしてゴロリと横になっている。

「・・・銀さーん?」

静かに呼びかけてみるも返事は無い。
その代わり彼からは寝息が溢れている。
こちらへ向けるその背からは何処と無く哀愁が漂っているのではなかろうか。

まぁそれは兎も角、このまま布団も被らずに寝続けては風邪を引いてしまうだろう。
押入れからそっと薄布団を取り出して銀時の身体に掛けてやる。
温かい布団を被せられ、心なしか彼の表情が緩んだ。

「・・・銀さん。一人ぼっちにしちゃってゴメンなさいね」

新八が小さく呟いた。
大事な用事があり今の今まで出掛けていたが多少の罪悪感は有る。
それを詫びるように優しい手つきで眼下の銀髪をふわふわと撫でた。
そして彼をそっと覗き込み、ほんの一瞬額へ唇を落とした。

「・・・控え目なこって」
「起きてたんですか?」
「んー・・・。布団、サンキュー・・・」

思ったよりも彼の眠りは浅かったらしい。
けれどもまだ眠気は強いらしく、このまままたもう一眠りするつもりのようだ。
ゴソゴソと布団の中で身じろいだ。

「入れよ」
「でも、夕方からお仕事ですよ」
「まだ時間あんだろ」
「・・・そうですね」

二人きりの穏やかな時間。
今晩は仕事がありゆっくり出来ないのだ。
ではせめて今ぐらい彼の隣で過ごすのもいいだろう。

新八は銀時の誘いを素直に受けて同じ布団の中へと収まった。

「えへへ、温かいですね」

入ってくるなり身を寄せてくる新八。
それに気を良くした銀時が更に彼を抱き寄せる。


「あーあ、仕事なんて行きたくねぇよ。
 ましてやあんな化けもん屋敷だぜ?」
「そんな言い方はダメですよ。
 お仕事、頑張りましょうね」
「しゃーねェ。
 客のおっさん共から絞り取ってやりましょうねパチ恵ちゃん?」
「ふふふ。程々にしといて下さいよパー子さん?」

二人クスクスと笑って。
仲良く戯れつつどちらからともなく口付け合った。


///

「起きて下さい銀さん」
「・・・んー」

枕元の目覚ましが鳴った。
それがすぐに止まったと思いきや今度は新八の声が降ってきた。
更に身体を揺すられて銀時がやっと目を開く。

「もうそんな時間かよ」
「そうですよ。
 でも昼寝して少しはスッキリしたでしょ?」
「・・・スッキリしたからムラムラします」
「は?」

あの後、二人揃っていつの間にか夢の中へ入っていた。
寝入る前に念の為にと新八がセットした目覚ましのおかげで時間にはまだ少し余裕がある。

それを見越して銀時がニヤニヤと新八の手を引いた。
おかげで彼の真上に覆い被さった新八がジトリとした視線を向ける。

「一体何を言ってんですかアンタは」
「俺ァ自分に正直になっただけだっての」

毎度の事ながら銀時は何処までもマイペースな人間だ。
呆れたような新八の溜め息などは全く意に介さない。
いまだ自分の上に乗ったままの新八の後頭部へ手をやり、そっと力を込めて顔を接近させる。
それと同時に自身も顎を上げて目の前にある形の良い唇をちゅっと啄んだ。


「・・・シよ?」
「ん、でも、お仕事が・・・」
「支障は無ぇようにすっから」

甘くキスを交えつつ「な?」と穏やかに問いかけられては、新八にはもうノーの選択肢は出せない。
頬を少し染めて銀時に念を押す。

「・・・絶対ですよ」
「ん」
「遅刻もダメですからね」
「ん」

新八が早々に折れて彼の言う事を受け入れた。
身体の力を抜いて銀時に凭れかかる。

「お?えれぇ素直じゃねぇの」
「ふふふ、今日だけですよ」
「・・・あーあ、何か惜しいなァ」

一切の抵抗をしない新八の身体をそっと組み敷く。
身体を撫でてやれば嬉しそうな仕草が返ってきた。

こんなにも素直なこの子。
時間さえ許すのならばゆっくりと可愛がって快くしてやりたいところだ。
しかし残念ながら今はそうもいかない。

せめてもの愛しさを込めて、銀時が唇同士をゆっくりと合わせた。
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