銀魂短編

□全ては気持ちの問題なのです
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いざ花を買ってみたはいいものの、やっぱり何だか落ち着かない。
手元の袋を見ては目を逸らす。

気持ちが落ち着かない時は甘味を摂取するに限る、というのは銀時の持論だ。
なので彼は馴染みの団子屋へと寄り道する事に決めた。



団子を一つ頬張りつつ、綺麗に施されたラッピングを見て大きな溜息を吐いた。
こんな時にガリガリと頭を掻くのは彼の癖だ。
やはりこんな慣れない事はするべきでない。
銀時の胸に些か後悔の念が浮かんできたその時、聞き覚えのある声が自分を呼んだ。


「あらぁ、パー子じゃないの」
「んァ?何だアゴ美かよ」
「あずみよ!・・・アンタ、仕事もしないでこんな時間にブラブラして」
「うっせーよ。説教なら間に合ってっから。
 つーかさっきちょっと儲けたから」

何だかあまり機嫌の良くなさそうな銀時の様子にあずみがやれやれと苦笑いしてみせる。
そして彼女(?)自身も団子を注文し、店員に手渡された茶を一口飲んだ。

このあずみは中々に目敏いらしい。
銀時が傍へ置いていた件のそれを指差して、楽しそうな口調で問い掛けた。

「それ、随分可愛らしいじゃない。誰かに貰ったの?それともあげるの?」
「・・・チッ。いいだろどうでも」
「何よ、そんな怖い顔して」

眉間に皺を寄せた銀時をあずみがパチパチと瞬きをして不思議そうに眺める。

銀時としては居心地の悪い事この上ない。
ただでさえむず痒いと言うのに、これ以上弄くり回されては堪らない。
立派なマダオながらにして少年の心を持つ(らしい)彼にとって、これはとてもデリケートな問題なのだ。
もうこれ以上この話題を広げないで欲しい。

しかしそんな彼の事などお構い無しに彼女は頭上に大きな電球を浮かべる。
パッと明るい表情でいきなり核心を突いた。

「あ、分かった!パチ恵にあげるんでしょ」
「・・・悪ィかよ」
「そんな訳無いじゃない。とっても良い事よ」

このあずみもパー子とパチ恵、つまりは銀時と新八の関係について知る人物だ。
なので今日という日の事を考えればすぐに合点がいったようだ。


本人達にその自覚があるのかは不明だが、いつも仲睦まじい二人。
かまっ娘クラブにて時々仕事を共にしているのだから、そんな彼らの様子は嫌でも目に入る。
あずみはとても微笑ましそうに目を細めた。

「実は私もね、今日ママに渡すお花を買いに行く途中なのよ」
「ママって、あのバケモン基オカママ?」
「・・・アンタ、またママの洗礼受けても知らないわよ」

あずみの言うその人物は、彼女の働く店のママ、マドマーゼル西郷の事だ。
一見には厳つい見た目のあの人物は花が大好きだと言う。
なので彼女は今、今年はどんな花を贈ろうかとワクワクしている所なのだそうだ。

それを聞いて銀時がまた一言二言と余計な事を言う。
もしもこの場に西郷が居れば逆鱗に触れるに違いない。
それでも自重などせず飄々と団子を囓る彼へ、あずみがジットリとした目を向けた。


「ママにはいつもお世話になってるんだもの。こんな日ぐらい感謝の気持ちを伝えたいじゃない?」
「そんなもんか?」
「ふふ。パー子アンタ、照れ臭いんでしょ。それで真っ直ぐ帰れずにここで道草くってんのね」

彼女の勘は鋭い。
うっかり図星を突かれて銀時がまた頭を掻いた。

余計な世話だと言わんばかりの彼の仕草にあずみがクスリと笑う。


彼女はいつも彼らを微笑ましいと思っている。
そして、羨ましいとも。
新八を見る銀時の温かい目、銀時を気遣う新八の柔らかい声。
互いに互いを支え合う彼ら二人は温かく眩しい。

想い合う気持ちと言うのは、はたから見ているだけで十分に伝わってくるものなのだ。

そして彼らにはこれからもそのままの二人で居て欲しいと思う。
仲良き事は美しき哉、とても素晴らしい事だ。


「早く帰ってそれ渡してあげなさいよ。あの子、きっとすごく喜ぶわよ」

新八はとても素直な少年である。
大好きな銀時からのプレゼントとあらばさぞ喜ぶ事だろう。

「頑張りなさいよ」
「・・・じゃーな」


団子の最後の一つを頬張った銀時が立ち上がる。
自分の分の代金をその場へ置いて、漸く帰路の続きを辿り始めた。
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