銀魂短編

□鬼よりも福
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「ただいま帰りました。銀さんと神楽ちゃんも一緒ですよ」
「フフ。三人共おかえりなさい」
「わーい、アネゴー!」

今はまだ夕方よりも少し早い時間。
万事屋を早々に店仕舞いして全員揃って志村家へと帰って来た。
新八が玄関の扉を開いて帰宅を告げると中からお妙が表れた。
彼女は笑顔で三人を出迎え、自分の顔を見るなり喜ぶ神楽の頭を優しく撫でてた。


四人揃い居間にて軽く茶と菓子をつまむ。
志村家にも、新八によってもう随分前から銀時・神楽それぞれへ専用の湯飲みが買い揃えられている。
当初「気に入ってもらえるか分からないけど・・・」と、新八から控え目に差し出された時の事を彼らはしっかりと記憶している。

普段自分達が万事屋で使っているものとはまた違うそれ。
けれどももうすっかり自分へ馴染んだその湯飲みを、銀時も神楽も大変に気に入っているのだ。



「さて。お茶も飲んだ事だし、僕そろそろ準備してきますね」
「あら、じゃあ私もお手伝いしようかしら?」
「いえ!大丈夫ですよ!
 姉上は今日は折角のお休みですし、ゆっくりしてて下さいよ!」
「アネゴ!私と遊んでほしいアルよ!」

新八と神楽、それに銀時。
彼らの間にだけ流れた緊張感に、三者ひっそり背中に汗を流した。

だが今回のところは新八のアシストと神楽のナイスフォローによって最悪の事態は避けられたようだ。
お妙は隣でねぇねぇと手を引く神楽へまたニッコリ笑いかけ、じゃあ後は任せるわねと二人で自室へと戻って行った。

女性陣の背中を見送り、新八と銀時は互いの顔を見やって安堵の溜息を吐いた。
やれやれとまた一枚煎餅を頬張る銀時。
新八がその隣へとやって来て、そっと腰を降ろした。

「何か手伝うぞ」
「じゃあ、お願いしますね」

銀時は新八の大きな瞳に見つめられるのが好きだ。
ふふふと笑う新八の手の上にそっと自らの重ねる。
たった二人きりの居間の中。
とても穏やかな空気に包まれて、彼らはそっと唇を合わせた。



///


「恵方巻き!早く食べたいアル!」
「ふふ、ちょっと待ってね」

新八と銀時、二人が作った海苔巻きの寿司。
新八が昨日予め具材の仕込みをしておいたおかげで、調理自体はスムーズに済んだ。

四本あるうちの一本は特大サイズ。
勿論それは、神楽用にと新八が作ったものだ。
その巨大な寿司を手渡された神楽は目を輝かせて喜んだ。

「今年の恵方は西南西だそうですよ」
「するってーと、どっちだ?」
「んーと、大体こっち向きですかね」

皆が新八の指差した方をチラリと見る。

「そんなアバウトでいいアルか?」
「フフ、いいのよ。
 こうして皆で食べる事に意義があるんだもの」

その疑問にニッコリ笑って答えるお妙。
神楽もそっか、と素直に頷いた。

「お味噌汁もありますからね。
 皆ゆっくり食べて下さいね」
「お前ェこそ、喉詰めんなよ」
「分かってますってば」

全員改まって同じ方向へ向いて。
いただきますと揃って告げた後、黙々と寿司を頬張る。

寿司はとても良く出来ている。
味噌汁だってホカホカ温かくて美味しい。
恵方巻きを食べ終わるまでは誰も喋ろうとはしないけれど、皆で食卓を囲むのは楽しい。
こうしてささやかに行事を楽しむ事は新八にとっても他の三者にとっても、心地の良い団欒なのだ。



その団欒の最中、新八は自分に何か良からぬ視線が注がれている事に気付いた。

とは言え正体はすぐに分かってしまう。
ジトリとそちらへ目を向ければ、やはり銀時が此方をジッと見ている。

彼も自身の寿司をモグモグと齧りながら、ひたすらに新八の顔を眺める。

(ヤらしいねェ〜)
(もう!何やってんだよアンタ!)
(いいじゃねぇか、減るもんじゃあるまいし。
 俺の事ァ気にせずにゆっくり食えよ)
(気が散って仕方が無いわ!あっち向けよ!)
(ヤダね。このまま視姦してやるよ)
(ギャアアアア!!)

銀時も新八もまだ恵方巻きを食べている途中なので何も喋らない。
それでも、互いの表情や仕草だけで彼らは十分に会話が出来てしまうのだ。
まだニヤニヤと新八を見続ける銀時と、赤い顔でフイと顔を逸らしてしまった新八。


そんな彼らの様子を敏感に察知したお妙と神楽がひっそりとこめかみに青筋を浮かべた事を、彼らは知らない。
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