銀魂短編

□帰りたい、その場所は
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銀時が仕事へ出掛けているこの一週間、新八は毎晩万事屋へ泊まり込んでいる。

ここのもう一人の従業員である神楽を一人にしない為という理由は勿論ある。
けれども一番の理由は、銀時がいつ帰宅してもきちんと迎え入れてやれるようにと思うからだ。

仕事の内容は銀時本人から聞いた。
どうやらきな臭くて恐ろしい危険は無さそうなので、その点はまだ安心している。
しかし帰宅がいつになるかははっきり分からないらしいのだ。

普段はだらだらとやる気の無い彼なので、急に泊り込みで連日仕事だなんてきっと辛いに違いない。
だから疲れて帰って来た銀時をここへ迎え入れて、沢山労ってやりたい。

彼が早く帰ってきますようにと、新八は毎日心の中で祈っているのだ。


///

「帰ぇったぞ〜」


日付けが変わる5分前。
新八の待ち侘びた声が玄関から届いた。

早速玄関へ出迎えに行くと、よくよく見慣れているのに何処か懐かしいその姿がそこにある。
その事が何より嬉しくて、新八が満面の笑みを浮かべた。

「おかえりなさい銀さん!」
「たでぇま。あー、やっと帰ってこれたー」

新八と顔を合わせるなり、銀時もホッとしたようだ。

のんびりした手つきで自身のブーツを脱ぐ。
その姿を見つめる新八はニコニコと嬉しそうだ。
銀時が上がり框を入って来たところでその肩口へそっと顔を埋めた。

「・・・ふふふ」
「お?積極的なお出迎えじゃねぇの」

帰って早々に愛情を与えてくれる新八。
その情へ応えるべく優しい抱擁を返した。
自分の胸元の彼が色々な意味で温かいので、銀時がフッと笑った。

やっぱりこの子はここに居て、笑顔で自分を迎え入れてくれた。
先程の銀時の根拠の無い予想は当たったのだ。
ほっこりといい気分で腕の中の新八へ頬擦りする。

「あはは、擽ったいですよ」
「んー?一週間ぶりのスキンシップじゃん」
「ふふ、そうですね。
 ねぇ銀さん、ちゃんと無事ですか?」
「ん。何にも無ぇよ」
「そうですか。よかった」

依頼内容に関わらず、否、仕事かそうでないかにも関わらず。
数日家を空けた時は、新八は必ず怪我や体調不良は無いかと銀時に尋ねるのだ。

いつもこうして自分を気に掛けてくれる事は嬉しいし、有難い。
お礼を言うかわりに、新八の顎を持ち上げて銀時はゆっくりその唇を啄ばんだ。


「なァ新八ィ。俺腹減った」

新八を抱き締めたまま、甘えるように銀時が言う。
まだ玄関先だというのにスリスリと頬擦りをし続ける彼。

なのに新八だってそこから離れようとする素振りもない。
銀時の腕の中でじっと大人しくされるがままだ。

「ご飯、食べて無いんですか?
 ちょっとお酒の匂いしますけど・・・」
「仕事終わりにおっさん達と呑んでただけだ。飯は食ってねぇ」
「そうですか。分かりました、すぐに用意しますね」

そう言って、彼の食事を用意すべく一旦腕の中を離れた新八。
また銀時に向かってニッコリ微笑んだ。

そして2、3歩進んだ時、「あ」と小さく声を発して銀時の方へ振り返った。

「お湯がもう随分冷めたんでお風呂も片付けちゃったんです。
 そっちも今から準備するんで、待ってて下さいね」

穏やかな笑みを湛えたまま彼はコテンと首を傾ける。

今しがた帰ってきたばかりだと言うのに、この子の温かさに早くも癒されてしまった銀時。
新八を背後からまたそっと抱き締めた。

「・・・あんがと新ちゃん」
「ふふふ、どうしたんですか突然?」

今度はちゃんと礼を告げた。

しかし突然礼を言い出した銀時に新八が小さく首を傾げる。
けれども勿論悪い気なんてしない。
銀時が離れるまで、またじっと抱擁を受け入れ続けた。
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