銀魂短編

□素直って最高
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翌日、12日の朝。
3人は予定通り依頼のあった建築現場へと赴いていた。

空は雲一つ無い晴天。
ついでに風も殆ど無い。
今日も江戸中が記録的な猛暑に見舞われるだろうと、朝の天気予報で結野アナが伝えていた。

そんな中でも万事屋の若者2人は元気いっぱいだ。
どちらから言い出したのか、しりとりなどをしながらここまで来た。
愛車の原付きを運転する銀時の背中へしがみつく新八と、定春に乗った神楽の間で交わされるそれ。

彼らはキャッキャと楽しそうだが、銀時のテンションは今にも地べたを這いそうな程に低い。
一人黙りこくって、すっかり死んだ魚の目をしている。

「クソ暑ィー眠ィー・・・。
 俺今日はもうボイコットするわ。お前ェら2人で適当にやっとけよ」
「もう、少しはやる気出して下さいよ。
 ほら、一緒にお仕事頑張りますよ」
「あ゛ー・・・」
「あ、神楽ちゃんは暑くなったらちゃんと休むんだよ。
水分補給も小マメにね」
「おぅよ。ちゃんと水筒も持って来たし、心配は無用アルぜ」
「ケッ。何なんだよこの扱いの差はよォ」

ニコニコと会話をする2人を尻目に銀時が不満そうに唇を尖らせる。
正直なところ、もっと自分の事も心配して欲しいという嫉妬は否めない。
おとな気ないという自覚も少しはあるが、こればっかりはどうしようも無い。
そんな彼の背中に、神楽がニヤリと勝ち誇ったように笑って見せた。


///

「それじゃあ、僕と銀さんはこっちで作業してるからね」
「了解アル。じゃあまた後でな」

割り当てられたそれぞれの持ち場。
神楽が元気良く走り去ったのを見届けて、新八が銀時へ微笑みかけた。

「ふふっ。それじゃあ僕達も頑張りましょうね」
「おー。・・・ところでお前ェ、何で今日はそんなにご機嫌なんだよ」

銀時は、新八の普段との微妙なテンションの違いをずっと感じ取っていた。
何せ彼は新八の事に関しては目敏いと自負しているのだ。
だから少し浮かれた、いつも以上に柔らかい雰囲気を纏う今日の新八に疑問を隠せない。
被っている麦藁帽子の上からポンと頭を撫でてやれば、彼は益々ニコニコと笑って答えた。

「昨日、誕生日を祝って貰えてすごく嬉しかったんです」
「んァ?別に今年に限らず毎年やってんじゃん」
「僕の誕生日なんて、わざわざ前倒しにしてまでお祝いをしてもらえるとは思いませんでしたもん」
「何だよ。俺達そこまで薄情じゃねぇっての」

毎年の習慣に新八がそんなに喜んでいるとは思わなかった。
しかしながらそこまでご機嫌ならば遣り甲斐もあったというものだ。

こうして何かと垣間見える新八の謙虚さや素直さは、もうずっと銀時を惹きつけて止まないのだ。

「ふふっ。僕今日はいつも以上にお仕事頑張りますね!」
「・・・頑張んのは結構だけど、今日はまぁ程々にしとけ」

頬を染めて笑みを湛える新八は可愛らしい。
なので彼の唇に自然と銀時が自分のそれを寄せてしまうのは、仕方の無い事だ。

そのまま数度互いの唇同士が触れ合った。
こんなひと気もある屋外での親密な触れ合いに、新八は少しの戸惑いはある。
それでも決して拒絶をしないのは、これもある意味彼の素直さ故かもしれない。

「もう、こんな所で・・・」
「・・・あー。押し倒してぇ」
「ちょっと!バカな事言ってないで早く仕事に取り掛かって下さい!」
「んー。・・・いいか、お前ェ今日はくれぐれも無理すんじゃねぇぞ」
「・・・銀さん?」

両者一旦は名残惜しそうに離れた。
しかし銀時が何やら不思議な忠告をしたので、新八はキョトンと彼の顔を見つめている。

それでも銀時はそれ以上何も言わない。
頭にクエスチョンマークを浮かべる新八の頬をそっと撫で、また彼の唇を啄ばんだ。
さっきから一体どうしたと言うのだと、新八が益々銀時の顔を覗く。

すっかり彼のペースを乱した事を確信し、銀時は満足そうにニッと笑って作業へと掛かり始めた。
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