銀魂短編

□だって、夫婦なんだもの
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何処の誰だかの誕生日前夜たる今日。
子供にカップルにその他諸々、沢山の浮かれた者達のおかげで街の経済はそれなりに潤っているようだ。
そして有難い事に、今年は万事屋もその恩恵を受けていた。


昨日万事屋へ立て続きに入った二件の依頼。
一つは建築現場の作業員補填、もう一つはかまっ娘クラブのホステス増員。


それぞれへの役割分担は昨日の家族会議により決定済みである。

///


本日の朝から銀時と神楽が建築現場へと駆り出されていた。


雇い主であるここの現場監督はいつも何かと万事屋を贔屓にしており、人手が足りなくなると必ず銀時へ声を掛ける。
彼らは2人揃って現場へ到着するなり、真っ先に雇い主の元へ顔を出した。

「悪いねェ銀さん。せっかくのクリスマスイブだってのに」
「いやいや、仕事回してもらえて助かるわ。
 何せウチの勘定奉行が毎日家計簿見ては溜息ばっか吐いてるもんでな」
「ハハハ、そりゃあ大変そうだ。
 そう言えば今日はあの子は居ないのかい?」

これまでに幾度か仕事を共にした事もあり、彼と万事屋の面々はすっかり顔馴染みである。
今日も3人揃ってここへ来るものだと思っていたようで、彼は不思議そうに首を傾げた。

「アイツは今日は別の仕事請け負っててな。
 だからこっちの怪力娘しか連れて来れなかった」
「こんなか弱いレディーに向かって怪力とは失礼な天パアル。
 帰ったら腹いせにその髪全部キレイに毟ってやるネ」
「ワハハハ、2人共相変わらず仲が良さそうで楽しげだねェ」

雇い主の彼が目の前の銀時と神楽の掛け合いに豪快に笑った。
しかしながら、表には出さずとも万事屋2人のテンションはどこか低かった。


早速仕事の指示を受けて2人は作業へと取り掛かる。
暫くは黙々と仕事をこなしていた彼らだが、神楽がついにボソリと愚痴を漏らした。

「・・・せっかくのクリスマスイブなのに何か気が乗らないアル。
 地味なメガネの地味な何かが足りない所為ネ」
「あぁ、全くだ。何だってこんなクソ寒ィ所で隣に居るのがテメー1人なんだ。
 あーあ、思う存分アイツ抱き締めてぇなァ」
「ふん、帰っても今日は嫁には会えないネ。やーい、ざまーみろー」

2人のテンションが低い理由とは恐らくこの所為だ。
神楽の言う通り、今日の仕事を終えて万事屋へ戻ったとしても新八はもう出掛けて居ないだろう。
新八は夕方頃にはもう一つの依頼先であるかまっ娘クラブへと出向いている筈だ。


昨日行った役割分担において、銀時は新八を1人でそちらの仕事へ行かせるのを嫌がっていた。
夜からの仕事でせっかくの聖夜を一緒に過ごせないばかりか、見ず知らずの男達に大事な嫁を触られるのが許せなかったのだ。
かまっ娘クラブではホステスのお触りは禁止とされているが、客の中には不躾な輩も居なくは無い。
銀時自身もホステスとして働いた事があるので、それは身を以て知っている。

なので彼は、自分がそちらで働くから新八と神楽を建築の仕事の方へ回すと言った。
しかし常にある程度の危険が伴う現場での作業、未成年だけでは有事の際に責任が取れないのでダメだと新八は首を横へ振った。

そんな家族会議の末、このメンバーの割り振りが渋々決定したのである。


///


その後も2人で散々愚痴をこぼしたが、仕事自体は問題無く済んだ。
しっかり給金も受け取って万事屋へと戻って来た。


玄関の扉を開けるもやはり新八は不在だった。
銀時、神楽共にいつもの習慣でただいまと告げるもその返事は返って来ない。

しかし台所から何やら良い匂いが漂っている。
銀時はその家庭的で食欲を大いに刺激する匂いの元を辿った。

鍋の中に、まだほんのりと熱の残るシチューが出来上がっている。
シチューと言えば自分達の好物である。
つまりは新八からの『お疲れ様』の意が篭っているらしい。
そんな温かな気持ちを確かに受け取った銀時は、愛しい彼を思い浮かべて1人優しく微笑んだ。



「銀ちゃーん!何かすげーアル、サンタが来てるネ!」

居間から神楽の声が届いた。
何やら浮かれているらしい彼女に誘われて居間へ入れば、テーブルの上に綺麗にラッピングされた2つの袋が並べられていた。

予想もしていなかったクリスマスプレゼントに、2人は内心とても喜んだ。
神楽はさっそく包装を解いて中身を取り出し、それへ頬擦りする。

銀時も彼女に続いて自らへ宛てられた袋を開封しようとしたが、一通の置き手紙が目に入った。


『2人共お疲れ様でした。
 ご飯はもう出来ているので、温め直して食べて下さいね。
 冷蔵庫にケーキも入っています。くれぐれも喧嘩をせずに、2人で分けて食べて下さい。
 それでは僕も仕事へ行ってきます。

 PS.今日はクリスマスイブなので、細やかながら2人へプレゼントも用意しました。
 気に入ってもらえると嬉しいです。   新八』


紙の上へ並ぶ彼の丁寧な文字。
そして今度こそ銀時も袋の包装を解いた。

彼らへ贈られたのは、厚手のマフラーとウサギのぬいぐるみ。
銀時と神楽は互いに目配せをして大きく頷き、さっさと夕飯の準備へ取り掛かった。
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