銀魂短編
□何気ない、そんな日
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すっかり寒くなり始めた今日この頃。
忍び寄る冬の気配のおかげで、街行く人々の服装が日々分厚く移り変わっている。
そんなある土曜日の昼近い午前中、新八は担任兼恋人である銀八の家へと遊びにやって来た。
事前の約束無しにこの子がここへ来る事は珍しい。
彼もコートを身に纏い、銀八が開いたドアの向こうからコンビニの袋を掲げてニコリと笑う。
どうやらここへ来る途中で銀八の喜ぶ何かを買って来たようだ。
早く中へ入れと銀八が迎え入れてやれば、おじゃましますと行儀良く新八が後へ続いた。
「急に来るなんて珍しいな」
「ごめんなさい、ご迷惑でしたか?」
「いんや、全然。どうせ暇だし」
「ふふっ、お土産買って来ましたよ」
一応は客人だと言うのに、銀八へ茶を出してやるのはいつだって新八だ。
今日も彼は腰を落ち着けるよりも先に勝手知ったるキッチンにて2人分の茶を用意した。
ちなみにマグカップは、最近2人で出掛けた際に購入したペアのものだ。
新八の淹れた茶を2人コタツで向き合って啜る。
そしてはいと新八から手渡された袋、銀八が覗けば中にはまだ熱の残る餡まんが2つ並んでいた。
「お、気が利くねェ」
「餡まん、美味しいですよね」
「漸くお前ェも甘味の魅力が分かるようになってきたか?」
「程々だったら、僕も甘いものは好きなんですけどね」
恋人同士他愛ない雑談をしながら頬張るおやつ。
相手の綻んだ顔に、両者心もほっこりと温まっていく。
「ごっそーさん。美味かった」
「今度また何か買ってきますからね」
カップに僅かに残っていた茶も飲み干した銀八。
のそりと立ち上がり、新八の背後へとやって来た。
どうしたのかとこちらを見上げる新八の頭をポンと撫でて、彼の背中を抱き込むようにしてそこへ腰を降ろした。
「座椅子になってくれるんですか?」
「いいよ。凭れかかってこい」
「あはは、温かい座椅子ですね」
引き寄せられる銀八の力に素直に従った新八。
背中から伝わる彼の体温が心地良くてふわりと笑う。
両手に包み込んでいるマグカップを傾け、茶をまた一口コクリと飲んだ。
これまでずっと点きっぱなしだったテレビが現在映しているのは刑事ドラマの再放送。
犯人は誰だと一緒に推理しながらの鑑賞は中々に楽しい。
2人の他愛ない会話は益々弾むばかりだ。
そんな中、時折ふわりと銀八の鼻孔をくすぐるのは仄かなフローラルの香り。
勿論それを発するのは眼下にある新八のサラサラな黒髪。
髪を梳くようにしてその頭を撫でてやれば、彼がこちらへ振り向いた。
「先生の手、大きいですね」
「そうか?」
「はい。こうやって撫でてもらうと、すごく安心します」
えへへとはにかむ新八。
普段より一段と素直な彼へ、銀八の顔へも自然と笑みが浮かんだ。
やがて新八はまたテレビへと視線を戻す。
すると、銀八がこれ幸いと彼の首へ唇を落とした。
ちゅっと言う軽い音と共に残ったその感触に、新八がまたこちらへ振り向く。
「・・・座椅子はそんな事しないですよ?」
「俺もう座椅子はやめたの。
今お前の背後に居るのは、ただの坂田先生デス」
「もう、都合がいいんだから・・・」
「何とでも言え。
・・・なァ志村クン、今からシよっか?」
銀八がニッと笑って新八の顔を覗き込む。
視界いっぱいを占領する彼へ、新八は目を細めて笑った。
そして、自ら僅かに顎を上げて銀八からのキスを欲した。
とても分かりやすい彼のおねだり、銀八はすぐさまそれを与えてやる。
触れ合った唇同士はゆっくりと互いの想いを確かめ合う。
温かく幸せなこのやり取りは何度も何度も繰り返される。
「・・・俺のお誘いは、OKって事でいいの?」
銀八の目にはもう本格的に熱い色が宿り始めている。
真っ直ぐにこちらへ向けられるその視線に、新八は静かに首を縦に振った。