銀魂短編

□甘党へ贈る甘え上戸
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「新八ィ、ババアに貰ったジュース飲んでもいいアルか?」

夕食を済ませて食器を片付ける新八の背中へ神楽が問い掛けた。

「うん、いいよ。
 ついでに銀さんにビールでも持って行ってあげなよ」
「・・・お前、今日は殊更銀ちゃんに甘いアルな。
 そんな事じゃああの甘党に全身余すところ無く舐め回されるのが目に見えてるネ」
「もう、変な事ばっかり言って・・・」

この子はどうしてこうもませているのだろう。
一体誰に似てしまったのかと新八は考えたがその犯人はすぐに特定出来てしまう。

彼が赤い顔で眉を顰めるのを一瞥して、神楽は自らのジュースと1本の缶ビールを持ってさっさと居間へ戻って行った。


用事を済ませた新八がケーキと追加のジュースを持って居間へ戻れば待ってましたと2人の視線がこちらへ向いた。
そして、箱の中身が気になるらしい神楽が纏わり付いて来る。
早く開けろと急かす彼女へ、開けてごらんよと新八が意味あり気な笑みを漏らした。

その言葉に従って箱から中身を出すなり彼女が吹き出した。

「ぶふふっ、何アルかこのケーキ」
「あはは、やっぱり神楽ちゃんも笑った」
「銀ちゃんの事だからきっと変なケーキ選んで来た筈だとは思ってたけど、予想以上だったアル」
「僕も銀さんがショーケースのそれを指差した時笑っちゃったよ」
「ったく、ホンットに失礼なガキ共だ。
 俺ァ心はいつまでも少年なんですぅー」

ケラケラと笑いの収まらない子供達へ今度は銀時が唇を尖らせた。
残り僅かだった手持ちのビールを一気に飲み干す。

そして空いた缶を置くなり、早く食うぞと2人を促した。


「・・・ケーキとは言え、顔をザックリ切るアルか?」
「あ、そう言われてみれば何だか可哀想・・・」
「いいんだよ。
 コイツァ元々腹空かせた子供に自分の顔を分け与えて喜ぶヒーローだからな」
「・・・何か語弊のある言い方ですね」

3人共このユニークなケーキはもう気の済むまで鑑賞したので、後は美味しくいただくだけである。
眼前の某パンマンにごめんなさいと一言告げて、新八が3人分を取り分けた。

「ついに今日のメインですよ銀さん、よかったですね」
「んー。あの卵焼きにメインのケーキ、そして後に控えるは可愛い可愛い新八クン。
 これだから誕生日はやめらんねぇな」
「ちょっと!アホな事ばっかり言わないで下さい!」
「何だよー。今日はずっと一緒に居ようって、今朝お前ぇが言ってくれたんじゃん」

ほろ酔いの所為もあるのか銀時はご機嫌だ。
大好きなケーキを頬張りながら何も厭わずサラリと恥ずかしい発言をする。
神楽の目の前で何て事を言ってくれるのだと、新八の顔が一気に赤らんだ。

「・・・新八ィ、私は今更何も気にしてないネ。
 今日は朝まで銀ちゃんに舐め回されろヨ。私、弟が欲しいアル」

両者へは目もくれず、何の感情も籠らない淡々とした調子で言い捨てる。
このバカップルがどうにもならないと言う事に最早神楽は悟り切ったらしい。

それに居た堪れなくなった新八は目の前の缶を開けてゴクゴクと一気に煽った。


が、実はそれがまずかった。

新八がジュースだと思い飲んだそれはれっきとした酒。
リンゴの描かれたパッケージが可愛らしい、缶チューハイである。

だが1人黙々とケーキを食べ進める神楽、ご機嫌で思考が若干トリップ気味の銀時、そしてテンパっていた新八。
彼がうっかり酒を飲んでしまった事に、その時は本人も含め誰も気が付かなかった。



「ケーキ、もう無いアルか?」

ホールケーキを買ってきたと言うのに、銀時と神楽にかかればそれはあっという間に食べ尽くされてしまう。
残念だけどもう無いよと新八が彼女を諭した。


ケーキも全て平らげたのでまた後片付けをしなければと新八は思うが、どうにも身体が言う事を聞かない。

頭がボンヤリとするばかりか全身が火照って熱い。
その上トロトロと眠気までやって来て、出来る事ならばこのままここで眠ってしまいたい。
けれども風呂に入ってくると神楽から声が掛かったので、新八は鈍い返事を返した。


そして今漸く銀時が彼の異変に気付いた。

隣の新八が妙に赤い顔で目を擦りながら怠そうにしている。
これは若しやと焦った銀時が彼の飲んだらしい缶を手に取って確認すれば、その予感はどうやら限りなく黒。

「・・・新ちゃーん?お前、ひょっとしてこれ飲んだの?」

本人に事実を確認すべくリンゴの缶を彼の目の前に掲げて優しく問い掛けてみる。
すると「はい」と返事が返って来た。

「バッカお前ぇ、これ酒じゃねぇかよ」
「そうなんすか?
 あぁ、だからこんなに眠くて熱いんですね・・・」
「そうなんすかじゃねぇよ。何、気付かなかったの?」
「えへへ、全く。今銀さんに言われて始めて気が付きました」

悪気も無く笑う新八に銀時が自らの額を抑えて溜息を吐いた。
この子の旦那であり一応は保護者でもある自分がずっと傍についていたと言うのに、どうして気が付けなかったのかと今更ながら悔やまれる。

しかしいくら未成年者の飲酒は禁止されているとは言え、飲んでしまったものはもうどうしようもない。
だったらせめて介抱してやるまでだと銀時は微笑んだ。



おいでと新八の腕を引けば、彼は素直に銀時の膝の上へとやって来た。
そして横抱きされる形で自分へ身体を預けてペトリと引っ付く彼の頭を優しく撫でる。
彼のメガネを外してその顔を覗き込めば多少ボンヤリしながらもにこやかだ。
そしてその丸い頬は火照っていてとても熱い。

様子を探るようにゆっくり背中をトントンと叩いてやれば、彼はふぅっと小さく息を吐いた。

「吐き気とか、無ぇか?」
「大丈夫です。えへへ、ポカポカして何か楽しくなってきました」
「・・・完っ全に酔っ払ってんじゃねーか」

銀時に背中をあやされるのが嬉しいのか今度は新八が上機嫌で浮かれ始めた。
寄り掛かる銀時の広い胸元と逞しい腕に、もうすっかり安心しきって身を任せている。

「何だったらこのまま寝ちまうか?
 後で布団に運んどいてやるよ」
「ん、ヤです・・・。
 今日はずっと一緒に居るって、僕言いましたもん」

寝てもいいと銀時が告げると新八は小さく首を横へ振る。

そして、今日はまだまだ貴方と一緒に過ごすんですと、銀時の首へ腕を回してしがみ付いた。



風呂から上がった神楽が目にしたのは、イチャイチャとへばり付く2人。
せめて自分が寝るまで我慢出来ないのかと、銀時へ本日3度目の制裁を加えるべく彼女が握り拳に力を込める。

しかし殺気を察知した銀時が慌ててちょっと待てとジェスチャーしてきた。

よくよく見れば確かに新八の様子が何かおかしいようだ。
銀時が原因の缶を指差せば、神楽は漸く状況を理解した。
ヤレヤレと肩を竦めて呆れた表情を浮かべる。

「・・・見ての通りだ」
「新八だけ酒飲むなんてズルいアル。私にも飲ませるネ」
「バカな事言ってねぇで、水持って来い」


銀時に促されてコップに水を汲んで戻って来た彼女は、いまだ銀時から離れる気配の無い新八の頬へとそれを当てた。
すると新八が突然の冷たい感覚に身じろぐ。
やっと銀時の肩口から顔を上げてキョロキョロと周りを見回す。

「あれ・・・?なぁに・・・?」
「ほら、飲むヨロシ。この酔っ払いめ」
「わぁ、お水だ。ありがとぉ」

新八はへにゃりとご機嫌な笑みを浮かべ、受け取った水をコクコクと飲み干した。

だが彼女を目の前にして自分は相変わらず銀時の膝の上だと言う事にまでは気が回らないらしい。
それどころかまた銀時の頬へスリスリと甘え寄り、何が楽しいのかクスクスと笑う。

「・・・オイ、ニヤけてんじゃねぇぞクソ天パ」
「いやいや、この状況でそんなの無理だから。
 ホントヤベェよなこの子。超絶可愛いよ?」

銀時がよしよしと新八の頭を撫でた。

そして相変わらず楽しそうな彼に、銀時が優しい口調で話し掛ける。

「ま、それにしてもだ。
 今日の主役様を差し置いてテメーが酔っ払うたァ、一体どう言う了見だコノヤロー」
「フンッ、旦那の誕生日に託けて浮かれてる奴は、明日二日酔いに苦しめばいいネ。ざまーみろアル」
「うぅ、面目ない・・・」

普段ならこんなミスはしない新八。

だが神楽の言う通り、このどこか浮かれた今日の雰囲気に飲まれていたのかもしれない。


2人からの言葉を受け、新八はまるで照れを隠すかのように再び銀時の肩口へと顔を埋めた。
そしてもうそこから顔を上げなくなってしまったので、神楽が本日数度目の溜息を吐いてジトリと2人を見やった。

「・・・アホ2人にはこれ以上付き合ってられないネ。私はもう寝るアル」

神楽は手をヒラヒラとさせながらおやすみと告げ、寝床の押入れへと歩き出した。

そんな彼女の背中へ銀時が一言投げ掛ける。
神楽がそちらへ振り返れば、銀時が神妙に呟いた。

「この事、お妙には黙っとけよ」
「・・・銀ちゃんが飲ませた訳じゃないし、別にチクったりしないネ。
 ただ、これにつけ込んで新八に無茶したらその時は知らないけどナ」

バカップルな2人に対してあんなに呆れ返っていたと言うのに、神楽の返答は存外にマトモだった。

そしてもう一度おやすみと告げ、彼女は今度こそ押入れへと入って行った。



神楽がこの場から離れてしまえばもう銀時が自重などする筈もない。

ずっと自分へ甘えっぱなしの新八を存分に抱き締めてやる。
やっと意思の叶った銀時は満足そうに微笑んだ。

そして目の前にある新八の真っ赤な耳朶へ舌を這わせればピクリと反応を見せる。
分かりやすい彼が益々可愛らしくてそれをパクリと咥えればくぐもった声が漏れ聞こえた。


「・・・新八、ちゅーしよ」

そう耳元で囁かれた新八、銀時の唇へ自らのそれをそっと重ねた。
両手で銀時の頬を包み込み何度も優しく啄ばむ。

一応は自分から仕掛けていると言うのにどこかウットリしたような表情を浮かべている新八。
いつもより積極的なのは、恐らくまだまだ酔いの回っている所為だ。


けれども銀時が彼の唇へ舌を這わせばあっという間に主導権は移り変わる。
控え目な新八の舌へ攻めるように銀時の舌が絡んだ。

徐々に深くなるそれに、両者共に熱情を帯び始めた。


銀時が慣れた手つきで新八の着物を緩める。
紐を解かれた袴に、合わせの緩んだ胴着。

はだけたそこから侵入してきた彼の大きな手は胸元を撫で、やがて敏感な粒へと触れる。
更に銀時のもう片手が露わになった太腿を滑ったその時、新八がおずおずと口を開いた。

「ぎんさん、おふろ・・・」

困ったように眉尻を下げる新八。
銀時の両手首をそれぞれ掴み一旦ストップをかけた。

情事の前にはなるべく自分の身体は清めたいのだと日頃から訴えている彼、酔っていてもそれは変わらないようだ。
そして今、銀時が頷かない限り掴んでいるこの手首は解放しないつもりらしい。

銀時としてはここでのお預けは色々な意味で少々辛いものがあるが、それでも新八がそう言うのだから仕方が無い。
わぁったよと苦笑混じりに了解してやれば、新八はニッコリと笑って見せた。

「そんじゃ、さっさと入んぞ」
「・・・?一緒に入るんすか?」
「ったり前ェだろ。
 酔ってるヤツなんて危なっかしくて1人で風呂にやれるかよ」

本音でもあり建前でもある銀時のその言葉。

だがあまり気にする素振りの無い新八は、彼と一緒に入る風呂に浮かれ始めた。
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