銀魂短編

□甘党へ贈る甘え上戸
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【2013年・銀時誕生日記念】


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蒸し蒸しとした嫌な暑さもすっかり過ぎ去り、朝晩はひんやりと肌寒くなった今日この頃。
そんな気候の10月10日と言えば、万事屋のリーダー坂田銀時の誕生日である。


今日の銀時は朝からいい事づくめだった。

銀時の1日はまず、嫁たる新八に起こされる事から始まる。
今日も自分を起こしに来た新八、その際いつもの習慣である起床のキスをねだってみたところ、いきなり期待以上の反応が返って来た。

普段は軽く1度触れるだけのそれ、この日の新八はニコニコ笑顔付きで何度も唇を啄ばんでくれた。
嬉しくなった銀時が調子に乗って新八を自らの布団の中へと引き込んだが、それでも彼は怒らなかった。
それどころか新八は自ら銀時へ引っ付いてスリスリと甘えて見せたのだ。

今日は一体どうしたのだと銀時が問えば、新八は嬉しそうに特上の笑みを浮かべた。

「今日は銀さんの誕生日ですからね。
 沢山甘やかしてあげます」

そう答えた彼は早速フワフワと銀時の頭を撫でた。
起床の瞬間からいきなりご機嫌な銀時、腕の中の新八をぎゅっと抱き締める。

「・・・俺浮かれちゃうけど、いいの?」
「ふふっ、勿論。誕生日おめでとうございます銀さん」
「ありがと新ちゃん。・・・今晩泊まってくだろ?」
「はい。今日はずっと一緒に居ましょうね」

銀時はちゃっかりと今夜の約束を取り付ける事も忘れない。
そして新八もまた彼のその言葉を見越していたようで、肯定と共に微笑んだ。

その後暫くイチャイチャとじゃれ合っていた2人、ふと気が付いた時には互いの舌までもが絡み合っていた。



こんな最高な1日のスタートを切った銀時だったが、甘やかしてやるとの新八の言葉通りまだまだ嬉しい事は続いた。

朝食の際、おかずの卵焼きが普段よりも甘かった。
不思議に思って作った本人である新八の方を見やれば、彼は銀時の言いたい事を察してニッコリと微笑みを返した。
そんな彼に、銀時はとても自分好みなこの卵焼きをもう一切れ齧りながら僅かに頬を染めた。

こうして朝っぱらからどうにもふわふわと甘ったる過ぎる空気を纏う銀時と新八。
呆れた神楽が2人を一喝、また銀時には更に一撃も加わったがそれでも両者は幸せだった。


それから数時間が経過し、昼食も済んだ。
神楽は食事が済むなり定春を連れて友達と遊びに出掛けて行った。

新八が食事の後片付けを済ませて居間へ戻ってくれば、銀時がソファへ横になっている。
こうして真昼間からダラける銀時にはいつもは容赦無く新八の説教が飛ぶのだが、今日だけは違うのだ。


新八がその手に何かを持っている。
寝そべる銀時へゆっくりと近付き、屈んで彼と視線を合わせた。
どうしたと銀時が問えば彼は手に持っていたそれを差し出した。

「デザートですよ」
「お?プリンじゃねぇか」
「食べますか?」
「食うよ。この俺が出された甘味を断る訳無ぇじゃん」

好物に釣られて早速よいしょと起き上がる銀時。
分かっていた事とは言え、嬉しそうに言葉を弾ませる彼が微笑ましい。
新八がクスリと笑ったその時、銀時に手を引かれたので素直に彼の真横へと腰掛けた。

「神楽ちゃんには内緒ですよ」
「分かってるって。
 卵焼きといいプリンといい、ぱっつぁんマジ最高」
「ふふふ。でもその分明日から暫くは特に厳しくアンタの糖を制限するんで、覚悟しといて下さいね」
「ゲッ、マジかよ・・・。
 今日のお前はこんなに天使なのに、明日っからは悪魔になっちまうの?」
「何が悪魔ですか。糖規制はアンタの身体を思っての事ですよ。
 つまり僕からの愛情なんです、ちゃんと受け取って下さい」

明日からの糖制限を言い渡され銀時が一瞬トーンダウンする。
いくら新八からの愛情とは言え、糖分中毒者の彼にはとても辛くのし掛かるようだ。

喜んでいたところへ水を差したのは確かに気の毒だが、このまま放っておけば銀時はどんどん調子に乗るに違いない。
それを防ぐ為には少々の釘を刺す事も必要なのだ。

未だに目の前のプリンへ手をつけない銀時の頬へ新八の手が触れた。

「まぁそれはさて置き。
 今日はまだもっといい物も食べられるじゃないですか」

だから元気を出して下さいと、まるで子供を宥めるかのように新八が微笑む。
そして優しいトーンで彼に尋ねた。

「僕この後ちゃんと買いに行って来ますからね。
 どんなのがいいですか?」

ニコニコと銀時からのリクエストを乞う新八。
そんな彼の優しい笑顔と後の楽しみに銀時も漸く立ち直ったようだ。

新八の頭を撫でつつニッと笑う。

「・・・俺も一緒に行く」
「え?一緒に?」

予想外の返答にキョトンとする新八。
そんな彼を尻目に銀時はやっと目の前のプリンへ手を付け始める。

それにしても、自身のバースデーケーキを買いに一緒について来るとはいかにも銀時らしい。
この人は本当に仕方のない大人だと、新八がクスクスと笑う。

だがこうして笑いながらも新八からは自分への愛情が溢れている。
すっかり気を良くした銀時は、プリンを一口掬って彼へと差し出した。

こうして糖を分け与えると言う行為は銀時にとって上等な愛情表現なのだ。
新八はもうそれをよく理解しているので、一瞬目を丸くした後嬉しそうに彼から直接それを受け取った。



その後2人は仲良く手を繋ぎ、のんびりデートがてら銀時行きつけのケーキ屋へとやって来た。

ショーケースの中へ陳列された沢山のケーキを目にするなり銀時の死んだ魚の目が輝きを取り戻す。
どれにしようかとテンション高く浮かれる彼へ、新八がまた笑う。

「どうしよう、どれもこれも超美味そうだよ?
 なぁ、お前はどれがいいと思う?」
「あははっ。今日の主役は銀さんなんですから、貴方の好きなのを選べばいいんですよ」

まるで子供のように無邪気に目をキラキラとさせる彼は意外と珍しい。
そして銀時は長い間散々迷った挙句、1つのホールケーキに的を絞った。

なんと、それは所謂「キャラもの」だった。
銀時がロックオンしたのは、正義の味方な某パンのキャラクター。
ケーキ丸ごとがそのキャラの顔であり見た目はとてもユニークだ。

大きな背丈の男がそんな一風変わったケーキを選ぶギャップに、新八はとうとう吹き出した。


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その後2人はついでに買い物も済ませて万事屋へと戻って来た。
玄関の扉を開けば先に帰って来ていたらしい神楽に出迎えられる。

新八は買ってきた食材を片付ける為、銀時は自らの大事なケーキを仕舞う為、揃って台所へと向かった。
そして目的の冷蔵庫を開ければそこには買った覚えのない缶ジュースや缶ビール等が多数入っていた。

銀時は神楽が買ってきたのだろと言ったが、酒類も一緒に並んでいる為恐らくそれは違うと新八が言う。
2人が疑問に思っていたその時、神楽も台所へと入ってきた。

「それ、さっき下のババアに貰ったネ」
「お登勢さんが?でもどうしてこんなに沢山?」
「ロクデナシの誕生日会の足しにしなって言ってたアル」
「わぁ、よかったですね銀さん!
 じゃあ今からお登勢さんにお礼言いに行きますよ」
「え、ヤダ。家賃の徴収されそうだから今日はババアの顔は見たく無ぇ。
 新ちゃん、俺の分まで礼言っといて」

一応家賃を滞納している事への危機感はあるのか、銀時がげんなりした顔を浮かべる。
それについて大家から言及されるのは自業自得だと言うのに、彼は絶対に新八の言葉には頷かなかった。
こうしてどこまでもマダオな銀時に新八は深い溜息を吐いてジトりとした目を向ける。

「・・・仕方が無いので今日のところはそれで勘弁してあげます。
 でも明日はアンタもお登勢さんにちゃんとお礼言うんですよ、分かりましたか?」
「ハーイ。流石はぱっつぁん、話が分かるねェ」

今日はこんな場面でも自分を甘やかしてくれる新八。
ニヤニヤしながら彼の額へ唇を落とせば、自分の目の前でイチャつくなと神楽から銀時へ本日2度目の鉄槌が下された。



夕食時、テーブルに並んだのは銀時の好物ばかりだ。

一緒に買い物をしている際、銀時は新八に本日のおかずのリクエストをしていた。
とは言ってもその中に特別なメニューは一切無く新八にとっては作り慣れたものばかりだ。
今日ぐらいもっと違う物を作りますよと新八は微笑んだが、リクエストした本人は寧ろそれがいいのだと譲らなかった。

そんな銀時は夕食リクエストの1つに卵焼きを挙げていた。
どうやら今朝出されたいつもより甘いそれがよっぽど嬉しかったらしい。
確かに彼に喜んでもらう為の図らいではあったが、こんなに気に入ってもらえた事は予想以上で新八も嬉しい。
彼への気持ちを込めて新八は本日2度目の甘い甘い卵焼きを作った。

そして3人揃ってのいただきますの挨拶の後、真っ先にそれを頬張る彼へ新八が穏やかに微笑んだ。

「ふふっ、美味しいですか?」
「んー、超俺好み。超美味ぇー」
「そんなに美味いアルか?じゃあ私にも寄越すヨロシ」
「だァァァッ、これだけはマジ勘弁しろよ。
 なんせこれァ俺の為の特別な卵焼きなの!」

卵焼きの乗った皿へ箸を向けた神楽。
だが銀時はそれを死守するべく、大人げなくも皿を持ち上げて逃げられる体勢を取った。

「神楽ちゃん。明日の朝ご飯に普通のやつ作ってあげるから、今日のところは見逃してあげてよ、ね?」
「・・・チッ。
 しょうがないアルな、誕生日に免じて今は引き下がってやるヨ」

唇を尖らせながらも素直に聞き分けた神楽。
銀時の一連の発言や自分を宥める新八から、彼が血相を変えて守り抜こうとしたそれがどんなものなのかは一瞬で理解出来た。
きっとかなり甘いのであろう事は間違いないが、新八の思いも沢山篭っているらしいと再び卵焼きを頬張る銀時の表情から想像がつく。


こうして毎度毎度嫌になる程に甘ったるいバカップルに、彼女は小さく溜息を吐いた。
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