銀魂短編

□夢追う君へ、愛を込めて
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一方、今日は万事屋で留守番をしていた神楽。

本日朝一で自重を知らない銀時の蛮行を見せつけられてウンザリしたが、新八からきっちり制裁を受けていたのでそれ自体は許してやる事にする。


今日は簡単な仕事だと言っていたのに、彼らの帰りが予定より遅いようだ。
どうせ今頃どこかで散々いちゃついてでもいるのだろう。
奴らは本当にどうしようもないバカップルだと酢コンブ片手に定春へ愚痴を零していたところ、玄関の扉が開かれた。
新八はともかく、毎日毎日浮かれ腐っている不愉快な天パ野郎に蹴りでも食らわせてやろうと神楽はその場から立ち上がった。


だが彼女がそこで目にしたのは、予想とは全く違って銀時に背負われた新八。
彼の着衣に付着している血とその臭いに目を丸くして驚いた。

「よォ。帰ぇったぞ」
「・・・新八、どうしたアル?」
「まァ、ちょっとあってな」

銀時を戒めてやろうと思ったのにそんな気は一瞬で失せてしまった。
無言のまま身動き一つしない新八が心配だ。

所在無くその周りをウロウロする神楽に銀時が苦笑した。
性格上素直にその心配を言葉に出来ない神楽の心中を見越した彼は、救急箱と布団の準備を彼女に命じる。


「ほら、着いたぞ新八」
「・・・んー。もうちょっと、このまま居たいです・・・」
「今は手当てが優先だ。後でいくらでも甘やかしてやるから、な?」

その為にまずは軽く傷口を洗う必要がある。
新八を脱衣所へ連れて行き、ギュッと自分へしがみついてくるのを名残惜しくもその場へ降ろした。
まだ眠気でボンヤリとしている彼の着衣を取り払いシャワーを浴びてくるように言いつければ、彼は素直に頷いた。


銀時はドカリと居間のソファへ座って新八が出てくるのを待つ。
いつもなら仕事から帰ればいの一番に彼からの労いの言葉とお茶が出てくるのに。
フーッと長い息を吐いていたところ、向かいへ神楽がやって来た。

「新八、大丈夫アルか?」
「そこまででけぇ怪我じゃなさそうだし、多分大丈夫だ」
「ならいいアル。・・・今日の計画はどうするネ?」
「さて。もう暫くアイツの様子見ねぇと何とも言えねぇな」

仕事が入ったとは言え今日と言う日はまだ終わらない。
この後主役の姉であるお妙も呼んで、4人でお祝いをする予定なのだ。


2人で唸っていたところ、新八が戻って来た。

恐らく先程は神楽を多少なりとも驚かせてしまっただろうと、新八の心が少し痛んだ。
それを取り繕うように新八が彼女へ向けて微笑んだ。

「ただいま、神楽ちゃん」
「おかえりヨー。生きてるアルか?」
「おかげさまで。驚かせてゴメンね」
「フフン、この神楽様が救急箱と布団を用意しといてやったアル。
 盛大に感謝するヨロシ」
「ふふっ、ありがとう」

すっかりいつもの調子で軽口を叩く神楽に、新八はホッと安心した。
お礼と共にもう一度笑顔を向ければ、彼女からも微笑みが返って来た。


神楽と笑顔のやり取りをしていたところ、銀時にそっと手を引かれる。
素直にそれに従い彼の隣に腰を降ろせばクシャっと髪を撫でられた。

「サッパリした?」
「えぇ、とっても」
「んじゃ、手当てしてやるから傷口見せてみ?」
「すみません、お願いします」

改めて傷を見るも思った通りそんなに深くない。

普段から手当てされ慣れている銀時、傷の処置もとても手際が良い。
その大きな掌に新八はクスリと笑った。

「・・・いつもと逆で何か落ち着かないですね」
「あぁ、俺も変な感じ。けどまァ何にせよ、傷は軽そうで安心した」
「誕生日に怪我するなんてツイてないアルな」
「あはは、ホントだね。でも、何だか僕らしいや」

神楽の言葉へ頷く新八、今度は力無く笑った。

運が無い事には慣れているのか、不貞腐れる事も無ければ嘆く事も無い。
降りかかった災いは受け入れて消化してしまうつもりらしい。

そんな彼の姿を見ていると何となく切なくなってくる。
こんな日ぐらいはもっと正直に感情を表に出せばいいのにと、神楽はそう思う。

今日は愚痴でも泣き言でも気が済むまで付き合ってやるのにと、彼女は内心溜息を吐いた。


「・・・仕方が無いから、特別の特別にこれやるアル」

神楽が持っていた酢コンブを箱の中から1枚抜き取って新八へ差し出した。
突如突きつけられたそれに新八は目を丸くして驚いた。
しかし数秒も経たないうちに彼女の意図を読み取って、素直に受け取った。

「ひょっとして、慰めてくれてるの?」
「・・・工場長は心が広いアル。
 酢コンブパワーでさっさと治すヨロシ」
「ありがとう工場長。おかげで元気が出たよ」

新八がニッコリと笑って受け取った酢コンブを食べる。
彼が自分の思いを察して笑ってくれた事が嬉しくて、神楽もまた笑った。


///

「じゃあ、私出掛けてくるネ」

唐突に神楽が立ち上がりそう言った。
気をつけてねと彼女へ微笑みかける新八、意味あり気な目線を寄越す銀時。
その目配せへ神楽はこっそり頷いて、定春と一緒に外へ出た。


銀時が救急箱を片付けに席を立った間、新八は台所へ向かう。
そしてお茶を淹れてまた彼の隣へ戻った。

「遅くなってごめんなさい。
 銀さんお疲れ様でした、お茶どうぞ」
「おぉ、サンキュー」

自らの元へ出された温かいお茶に労いの言葉。
怪我人だと言うのにいつもと変わらず笑顔で気を利きかせる新八に、銀時の表情が緩んだ。

彼の淹れた茶からは、ホッとする緑茶の香りと味が広がる。


「さっきは背負って帰ってくれてありがとうございます。
 僕、何だかすごく浮かれちゃいました」
「あぁ、すんげー可愛かったよお前」

先程の自分の行動を思い返して、新八が照れ臭そうに笑う。
頬を染める新八が素直で可愛らしいので、銀時もずっと上機嫌だ。
手始めに、彼のサラサラの前髪を掻き上げ額へ唇を落とした。


「ごっそーさん」

茶を飲み干し、銀時が湯のみをテーブルへ置く。

賑やかな1人と1匹が居なくなった現在の万事屋の中はとても静かだ。
こうして2人きりになってしまえば、先程の銀時の企てが実行される事になる。


「新八」

銀時が穏やかにその名を呼べば、新八が嬉しそうに微笑んだ。
そして自ら銀時の胸元へと飛び込んで来た。

先程、正面から甘えるのは恥ずかしいので無理だと言っていたのに。
本当にやれば出来る子だと、銀時の口角は上がりっ放しだ。
素直ないい子には沢山のご褒美を与えてやらねばなるまい。

と言うのはただの方便であり、実のところは銀時自身が彼を甘やかしたくて仕方が無いのだ。
新八の身体をぎゅうっと抱き締めて、その温もりを噛みしめる。
華奢なその身体の抱き心地はいつだって最高だ。

そして彼の顎をそっと持ち上げて唇を合わせた。
新八は薄っすらと頬を染めて大人しくそれを受け入れる。
時折ちゅっと音を立てながら何度も啄ばまれる接吻には、銀時からの愛情が沢山篭っていて幸せだ。


もっと、もっと彼の愛情が欲しい。

そう思う新八は、温かい眼差しを銀時に向けて言った。

「・・・銀さん」
「ん?」
「・・・好きですよ」
「今日は随分と素直じゃねぇか」

そう言うや否や、また一つ唇へ銀時からのキスが落ちてきた。
キスの最中(さなか)に頭を撫でられ頬を包まれ、銀時からの惜しみない愛情が伝わってくる。

あまりにも幸せな今この瞬間に、新八は何だか泣きそうになってきた。
潤みそうな目をギュッと閉じて彼の着流しを握った。


「さてと」

幾度ものキスを交わした後、銀時が不意に呟いた。
どうしたのかと新八が小首を傾げたその時、背中と膝裏へ腕を差し入れられた。
そしてよいしょと言う声と共に身体がふわりと浮いた。

「あ、あの・・・?」
「布団に運ぶだけだ。大人しくしとけよ」

自分を持ち上げてスタスタ歩く銀時に、新八は内心キュンとせずにいられない。
逞しい腕に開かれた胸元、見上げれば整った顔。
それらを見やって新八は1人また頬を赤らめた。


「何赤ぇ顔してんの?
 あ、ひょっとして銀さんに見惚れてたとか?」

布団の上に下ろされたかと思いきや、ニヤリと笑う銀時の声が降ってきた。
こんな時は必死に取り繕う言葉を並べるのがいつもの新八だが、今は何故だかそんな気が起こらない。
ニッコリ笑ってコクリと頷いた。

そんな彼に、銀時は一瞬驚いた顔を浮かべる。
そして彼の上に覆い被さって互いの額同士を合わせた。

「・・・お前ね、そんな可愛い反応されたら今すぐ襲っちまいたくなんだろうが」
「・・・するんですか?」
「んー、今はお前を寝かしつける為に連れて来たの。
 だから、それァまた後でな?」
「・・・はい」

もう一度新八が小さく頷けば銀時もクスリと笑って彼の頭を撫でた。
そして身体を横へずらし、トントンと一定のリズムで新八の胸元を叩く。

「晩飯の準備が出来たら起こしてやる。
 それまでゆっくり休んでろ」
「でも・・・」
「いいから。今日ぐれぇ、甘えとけ」


それから間も無く新八がまた眠りに落ちた。
本人はいたって元気そうではあったが、負傷によって身体は疲労していたようだ。

その穏やかな寝顔に癒されつつ、銀時はまたそっと彼の唇を啄ばんだ。
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