銀魂お題

□どうしてこうなった
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そんな理由から嫌々学級委員長をしているはずなのに、志村弟は意外とよく働く。
殆ど毎日放課後に呼び出しているにも関わらず、断られた事は無い。

最初こそ俺が委員長に指名した不純な動機を知って怒っていたものの、今では助手のポジションが板についてきた。
最近は「次は何を手伝えばいいですか」なんて、積極的に雑用を手伝ってくれるまでになった。
やはり俺の目に狂いはなかったと、人選の的確さに自画自賛する毎日だ。


日々志村弟が雑用をこなしてくれるにもかかわらず、舞い込む面倒事は止まる事を知らない。
今日も今日とて俺は仕事に追われている。
残りはアイツに任せるかとペンを置いた時、ふと今日のスケジュールを思い出した。

(・・・今日の放課後は職員会議じゃねぇかよ)

それはたしかSHRのすぐ後だった筈。
こんな忙しい時にくだらない会議なんてしやがってと内心悪態付く。

その時、4時限目の終了を告げるチャイムが鳴った。
俺は目の前の仕事を一時中断して職員室へ戻る。

『3Zの志村弟ー。昼食が済んだら国語準備室に来なさーい』

適当に校内放送を流しておき、また準備室に戻る。
しかし一度中断してしまった仕事を再開するのには意外とエネルギーが必要らしい。
再びペンを握る気になれず、俺は昼食のシュークリームを頬張る。
甘いカスタードが溢れるほど入っており、つい頬が綻んだ。

指にもついたカスタードを舐めとると同時に、部屋の扉が空いた。

「失礼します」
「おー、待ってたよ志村クン」
「今日は何のお手伝いですか?」

コイツの中では、もうすっかり呼び出し=手伝いと根付いているようだ。
頼みたかった雑用の書類をまとめていると、志村が隣のイスへ腰掛けた。

「そのシュークリーム、もしかしてお昼ご飯ですか?」
「まぁな。エクレアもあるんだぜ?」
「両方ともおやつじゃないですか」
「糖分は俺の主食だっての。いずれお前にも分かる時が来る」
「来ませんよ。そんな事ばっかり言ってると、先生いずれ糖尿になりますよ?」

志村が呆れた目で俺を見ている。
今言われたこのセリフはこれで何度目だろうか。
準備室の机、職員室の机、カバンの中、白衣のポケット。
絶対に糖分を欠かさない俺。
それを見る度にコイツは俺に注意し続けている。

「あ、また白衣脱ぎっぱなしにしてるし」

俺が適当にソファーの上に放り投げておいた白衣を目ざとく見つけて席を立つ。
それを丁寧に畳んで、また再びそこへ置いた。
言いつけられた雑用をこなすと同時に俺の食習慣に小言を言い、ちょっとした身世話までしてくれる。
ただの助手のつもりだったのに、これじゃまるで嫁みてぇだ。

(・・・って、嫁って何だよ。コイツじゃあ百歩譲ってもカーチャンがいいとこだろ)

一瞬とはいえ、とんでもない事を考えた自分にビックリした。

そういえばこの志村弟は日々クラスの奴らにもオカンなところを発揮している。
この前は常に持参しているらしいソーイングセットで土方の制服のボタンを直していた。
その前には、弁当を忘れた山崎に自分のおかずを半分分けてやったらしい。
また家では、姉とホームステイしている留学生の神楽に毎日弁当を作ってやっているようだ。
家事も本来3人で分担のはずだったが、実質的には9割方は志村弟がやっているとこの前神楽が話していた。


姉と留学生はともかくとして、前に挙げた野郎2人に対して何となく良い気がしないのはどういう訳だろうか。
でもそれは自分でもよく分からない。

ぼんやりと目の前の志村弟を眺めていると、本人が何か言いたそうな目でこちらを見た。

「・・・先生、何すかさっきから。そんなに見られてたら居心地が悪いです」
「そんなに見てた?」
「えぇ、穴が空きそうなほど」

そう言いながらも、しっかりと俺が言いつけた雑用は片づけてくれたらしい。
トントンと書類をまとめて俺に差し出した。

「終わりましたよ」
「サンキュ。今日は放課後は真っ直ぐ帰っていいぞ。俺、職員会議があんだわ」
「それで昼休みに呼び出したんですね」
「お前、ちゃんと飯食った?」
「食べましたよ。ちょっと急ぎましたけど」
「そりゃァ悪かったな。これ、半分やる」

エクレアを半分に千切って袋に残ったほうを志村に渡す。
すると、コイツは驚いた顔で俺を見た。

「え?でも・・・」
「いっつも感謝してマス」
「・・・その為に僕を委員長にしたんでしょ。それに、これ先生のお昼ご飯ですよね?」
「いいから。今週の日曜、何の日か知ってっか?」
「・・・何かありましたっけ?」
「母の日だってよ。
 家でもクラスでも俺に対してもオカンな志村クンに、先生が皆を代表して感謝しといてやるから感謝しろよ」
「何ですかそれ。もう色々意味が分からないので突っ込む気になれません」

志村がまたジトリとした目で俺を見る。
そんな顔も結構愛嬌があると、実は前々から思っている。

「いいからさっさと食っちまえ。予鈴鳴るぞ」

俺が手元のエクレア半分を頬張りながら促すと、志村もゆっくりと食べ始めた。
改まってその顔を見てみれば、高3男子にしてはやや幼い印象だ。
さらさらの髪に、大きな目。
また体型はスラリとしておりあまり筋肉質ではない。
かといって、触れれば折れてしまいそうというほど貧弱ではない。
顔も体もバランスが良く、キレイという言葉がぴったりと当てはまる。

「・・・先生。さっきも言いましたけど、そんなに見られると居心地が悪いです」

今度は眉尻を下げて困ったような目を向けている。

(あ、何か可愛い)

大きな目での上目遣いに不覚にもドキリとしてしまった。
その勢いを借りてこれまでずっと気になっていたサラサラの髪に触れてみた。
予期せぬ俺の行動に、志村も驚いたようだ。

「わっ、何ですか?」
「やっぱりお前の髪超サラサラ。何コレ。おかしくね?ずるくね?」
「今日の先生、何かよく分からないです・・・」

サラサラのその髪は思ったよりもずっと触り心地が良い。

志村は戸惑っているようだが、意外にも拒む素振りはない。
そして触れているうちにだんだんコイツの顔が赤くなってきた。
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