銀魂お題

□もうちょっと危機感持ってよ
2ページ/3ページ


そしてこれはまたある日の事。

昼休みの終了が間近だと知らせる予鈴が校内に響き渡る。
俺はこの日は5限の授業が入っておらず、自分の城たる国語準備室で仮眠をとるべく職員室を出た。
校庭から慌てて教室へと駆け上がって行く生徒達を尻目に自身ものんびり階段を登っていると、その流れに逆らって2人の見慣れた生徒達がゆっくりと降りてきた。

それはウチのクラスの山崎と、何と愛しの志村弟。

こんな所で志村弟の姿を見られてラッキーだと思ったが、何やらコイツら様子がおかしい。
山崎が志村の腰へ手を回し、志村は俯き加減でそちらに寄り添っている。

「何してんだお前ら。もう予鈴鳴ってんぞ」
「あぁ、坂田先生。新八君具合が悪いみたいなんで、俺これから保健室まで付き添います」


山崎から事情を聞き改めて志村を見れば、確かに顔色が悪い。
そんな志村を痛ましく思う反面、目の前でピタリと寄り添う2人がどうにも不愉快だ。
つーか山崎、お前さも当然とばかりに志村に引っ付いてんじゃねーよ。

一応は具合の悪い志村を気遣いつつそっとその細い腕を自分の方へ引いた。
山崎が素直に手を緩めたので志村はスンナリと俺の方へ抱き止められる形になる。

「ウチのクラス、5限何だっけ?」
「日本史です」
「コイツは俺が保健室に連れて行くから、お前は授業に戻れ」
「はいよ。新八君、日本史の先生にはちゃんと連絡しておくからね」
「ゴメンね山崎君、ありがとう」


そして本鈴が鳴り山崎は急いで階段を駆け上がって行った。
その後ろ姿を見届けた後、俺達もゆっくりと歩き出す。

志村を支えつつ、山崎に負けじとピタリと寄り添う。

「・・・先生、わざわざすみません」


申し訳なさそうに言う志村が何だかとてもいじらしくて、つい手に力を込めてしまう。
それに応えるように志村も寄り添ってくれてるように思うのは、果たして俺の気のせいだろうか?




「保健の先生、居ないんですね・・・」


保健室のドアには保健医の不在を告げる札が掛けてある。
部屋の鍵は空いているが照明は消えており、ベッドも全て空のようだ。

「適当に横になれ」
「・・・いいんですか?」
「いいのいいの」


少し躊躇ってはいるが、身体の不調のほうが勝ったのだろう。
志村がおずおずと布団へ入る。

「ほれ、体温計。熱計れ」
「はい・・・」
「いつから調子悪かった?」
「・・・数日前から。本格的に具合が悪くなったのは、今日の3限の終わり頃からですけど」


体温計の電子音が鳴るまでの間に体調についていくつか尋ねる。
そして不在の保健医に代わってその記録をとった。

「体調不良の心当たりは?」
「ちょっと風邪気味だったんですけど、バイトが忙しくて最近あまり寝てなかったんです」
「昼メシ食った?」
「食べられませんでした」


記録用紙へペンを走らせている時、計測終了を知らせる電子音が鳴った。
志村がゆっくりと取り出したそれは高い数値を示している。

「38.7℃。あーあ、こりゃもう早退だな」

不安そうにこちらを見上げていた志村を安心させてやりたくてそっとその額に手を置いた。
すると意外にも志村は困ったような顔を見せた。

「・・・6限は現国だから、帰りたくないです」
「つってもお前、この熱だぞ。無理しねぇで帰って休め」
「お願いです、出席させて下さい」


眉を下げながら言うその言葉に驚かずには居られない。
コイツはこの前現国は好きだと言っていたから単に好きな教科の授業を休みたくないだけなのだとは思う。

だけど、もしかしたら。

不謹慎ながらもそんな浮ついた期待を抱いてしまう。
コイツの真意は分からないが、少しぐらいは浮かれてもいいのだろうか。

「・・・わぁったよ。けど、調子悪ィんなら朝の時点でちゃんと俺に伝えなさい」
「ゴメンなさい」
「つーか、身体は大事にしろ。いっそバイトなんて辞めろ」
「あはは。僕、バイトしないと生活できないです」


コイツの家庭の事情とかは一応知ってる。
だからバイトしねぇとやってけねぇ事も勿論分かってる。

だけど頑張り過ぎに祟られたこんな姿を目の当たりにするとそう思わずにはいられなかった。

「なら、俺がお前を養ってやんよ」
「え?」
「・・・何でもねぇよ。ほら、お前はもう寝とけ」


ついうっかりとんでもねぇ事を口走ってしまったが志村は理解しかねたようだ。
キョトンとした表情を浮かべている。

これ以上余計な事を言ってしまわないうちに一度その場を離れる。
戸棚の中から冷却シートを1枚取り出して来てそれを志村の額に貼ってやった。

「わぁ、冷たい。ありがとうごさいます」
「どういたしまして」
「・・・さっきから思ってたんですけど、先生やけに保健室に慣れてますね」
「前は授業入ってねぇ時に偶に寝に来てたから、知らねぇうちに諸々の勝手覚えてた。
 まぁ、最近は専ら準備室で仮眠取ってるけどな」


少しの間会話を交わしていたが、志村の口数が減ってきた。
瞼も閉じかかっており怠くて眠いのだと直ぐに見て取れる。

本人が6限を出る気な以上、せめてこの時間はゆっくり寝かせてやりたい。
そっと布団を肩まで掛け直してやると、一瞬意識を浮上させてしまったようだ。

「・・・せんせ・・・」
「このまま暫く寝てろ。6限始まる前に迎えに来てやっから」
「・・・は、い・・・」


あやすように胸元をトントンと一定のリズムで叩いてやれば、志村は瞬く間に眠りへ落ちた。
体調が優れず辛い筈なのにその寝顔は安らかだ。
苦しんではいない様子にホッとしつつ、やんわりと頬を撫でてみた。
それは熱の所為で赤く染まっており、とても熱い。
だかもうしっかり眠りに入っているようで目を覚ます気配はない。

こうしてこのままずっとコイツを眺めていたかったが、今まで不在だった保健医が戻ってきた。
非常に名残惜しいが、音を立てないようそっとその場を離れる。
保健医にこれまでの経緯を伝えてさっき記録した用紙を渡しておいた。

そして6限の前にまた様子を見にくる事を告げ、俺は保健室を後にした。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ